2021年2月22日月曜日

ひきこもり連載(9)心理カウンセリング

 公明新聞 2021.2.18.
心理カウンセリング
気持ちが整理され行動に

ひきこもり支援に、心理カウンセリングは大きな力を発揮します。

困っている人はすぐに答えを知りたいものですが、カウンセラーはなかなか教えてくれません。答えは人から与えられるものではなく、自分自身が見いだすものです。

不安、恐れ、悲しみ、怒りなどマイナスな気持ちは人を動けなくします。経験豊富なカウンセラーは、その気持ちを安全に引き出してくれます。気持ちが整理されると、今までできなかったことが自然にできるようになります。

Aさんは、ひきこもっている息子にカウンセリングを受けてほしいと願っていますが、心を閉ざしているので無理です。仕方なく母親であるAさん自身が受けました。複雑な思いを語って心が浄化されると、夫や息子に自分の気持ちを伝えることができました。すると夫が動き出し、息子も変わっていきました。感情の世界を扱うカウンセリングは信じない人というも多くいます。感情表出に違和感を抱く人は仕事や公共の場で理性的な会話はできても、家族や親密な間柄で気持ちの交流ができません。そのような人こそカウンセリングが効果的です。

相手の気持ちは変えられません。変えられるのは自分だけです。自分が変わろうとする勇気は相手を動かし、自らも変わる勇気を与えます。

カウンセリングは医療機関、学校、会社などで受けることができます。民間のカウンセリング機関も増えてきました。地域の保健所や都道府県に設置された精神保健福祉センターでは、ひきこもりのカウンセリングも受け付けています。

 心理カウンセリングは社会的ニーズがあっても、誰でも気軽に利用できるほど行き届いていません。医師や看護師などの国家資格は古くから制度化されていますが、公認心理師は、ごく最近制度化されました。学校の養護教諭は常勤ですが、学校カウンセラーは非常勤です。今後、全ての学校や中規模以上の企業に心理カウンセラーの常勤配備が求められます。


ひきこもり連載(8)医療者

 公明新聞 2021.2.11.

医療者
よく聴き理解してくれる人を

ひきこもり支援に、医療は大きな力を発揮します。

気持ちが不安定な時や落ち込んでいる時、あるいは不安で眠れない時などに精神科の薬は効果を発揮します。薬は習慣性や副作用があるから使いたくないと考える人も多いのですが、少量を適切に利用し、その効能をよく理解して上手に付き合うことが大切です。

ただ、薬の力だけではひきこもりの根本解決には至りません。大切なことは、家族や身近な人々の理解と環境調整、社会的なサポート、そして本人の気持ちの整理です。

診療科は精神科や心療内科がよいでしょう。ただし、ひきこもりや若い年代の診療に慣れていない医師もいますので、事前に問い合わせるなどよく調べるとよいです。話をよく聞かず、丁寧な説明がないまま、やみくもに薬を処方するだけの医師は避けた方がよいでしょう。心の病気は検査などの客観的なエビデンスが乏しく、医師の経験に基づく主観に頼らざるを得ません。診断する医師によって病名や処方される薬が異なることがよくあります。納得するためにセカンドオピニオンを求めるのもよいことです。よく聴いて理解してくれているという実感を持てる医療者を見つけてください。心の治療にとって、医療者との信頼関係がとても大切です。

 厚生労働省は、ひきこもりに特化した相談窓口として「ひきこもり支援相談センター」を全国70カ所余りに指定しています。地域の支援施設や医療機関の紹介、来所や電話による相談、家から出られない場合は訪問相談にも応じてくれます。

ひと昔前までは専門家としての医師の言葉をそのまま受け取る風潮でしたが、今は違います。インフォームド・チョイス、つまり利用者とその家族が病気や治療薬についてよく説明を受け、希望する医療を自ら選択し、納得して受ける姿勢が回復の近道になります。

2021年2月7日日曜日

ひきこもり連載(7)学校との関わり

 公明新聞 2021.2.4.

学校との関わり
教師と保護者の信頼関係が大切

ひきこもり支援に、学校は大きな力を発揮します。
人は傷つき体験を乗り越える中で成長します。人生のハードルにつまずき、何度か挑戦して失敗が成功に転じる体験が自己肯定感を育みます。
ハードルの挑戦は自立心が芽生え始める思春期、女子では小学校高学年、男子では中学生くらいから始まります。保護者によって守られ、自分の思い通りになる世界から巣立ち、異質な他

者と向き合い、自分の居場所に取り込んでいきます。
時には否定されたり、思いどおりにならないことに傷つき、人との関わりから撤退し、ひきこもります。十代のハードルを無難にこなした人が二十代、三十代にその時期を迎えることも稀ではありません。
傷を癒すために数週間程度ひきこもることは問題ないし、むしろ長い人生を生き抜くために必要です。しかしその期間が長びくと、撤退していることが自信喪失に繋がるので、適切な時期に復帰します。そのためには、成功するかもしれないという希望と、失敗しても見捨てられないという安心感が必要です。それを与えるのが親や教師などの信頼できる大人の存在です。本人の苦しみを理解しつつ、本人の潜在力を信じて、手を出し過ぎず、本人の努力を暖かく見守ります。
ハードルの種類を変えてみるのも良いでしょう。現在はいわゆる普通学級だけでなく、様々な選択肢が用意されています。小中学校段階では適応指導教室や特別支援学級、高校段階では、通信制、昼間の定時制、サポート校などが適応しやすく自信を獲得しやすいと言えます。
高学歴であることが幸せに結びついていた昭和の時代にはより高い偏差値の学校が好まれ、それ以外の選択は一段低いものと見られていました。多様な価値観・生き方が許容される今は、旧来の価値観にとらわれず、本人の個性に合致した居場所が人生の幸せ感に結びつきます。
学校の中に落ち着ける居場所を見つけることも重要です。多くの仲間たちがいる教室はハードルが高いので、保健室など保護的で個別の対応ができる場所を活用します。養護教諭と担任教師がよく連携し、本人のペースに合わせ段階的に復帰します。
学校と家庭の連携も重要です。得てして学校は家庭の、家庭は学校の対応が悪いと批判しがちですが、教師と保護者がじっくり話し合い、相互の信頼関係を樹立します。家族が信頼している学校であれば、本人も復帰しやすくなります。
教師が家庭を訪ね、本人と落ち着いて話し合えると学校復帰の大きな力になります。まず教師と保護者がよく話し合い、十分な了解のもとで訪問します。それが得られない状態で家庭を訪問するとトラウマの再体験になりかねません。

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講釈)私は多少長めの原稿を送って、新聞記者に編集してもらいます。上記の青文字が削除された部分です。確かに削除しても全体の意味は通るから上手な編集ですよね。
でもピンク色の部分は残して欲しかったなぁ。ちょっと話題はそれますが言いたかった部分なので。

2021年2月1日月曜日

ひきこもり連載(6)家族の力で回復

 公明新聞 2021.1.28.
家族の力で回復
勇気を出し本音で語り合う

ひきこもりは家族の力で回復できます。
 海斗くん(仮名)は地域で一番の高校に進学しましたが、優秀な仲間たちに入れず体調を崩し、不登校になりました。カウンセラーから、親は口出しせず本人に任せるよう指導され、学校のことは一切触れないできました。半年たっても変化がないので、母親が私のところに相談に来ました。
 家族が協力しなければいけないと頭では分かっていますが、母親はどうしてもできません。10年前の夫の浮気がきっかけで、本音で話し合えなくなっていました。このことも誰にも言えず、先生ならと、苦しい気持ちを初めて言葉にしました。
 2回目の相談には夫婦で来訪。初めて息子の不登校に向き合うことができました。父親は海斗くんのことが心配で、仕事も手につかないと言います。母親はびっくりしました。夫は家族のことなど全く念頭にないと思っていたからです。
 3回目の相談には海斗くんと両親の3人でやってきました。父親が初めて海斗くんと話し合えました。海斗くんは今の高校には行きたくないけれど、一人で勉強して高卒認定試験を受けるつもりだと言います。それを聞いて両親はびっくりしました。家にひきこもり、ゲームしかしていない海斗くんは将来のことなど何も考えていないと思っていたからです。
 その翌週、海斗くんは何事もなかったかのように登校し始めました。「うちの家族は傷つくことを恐れ、お互いに言いたことを言えなかったのだと思います」。母親はしみじみと語りました。
 家族の勇気が海斗くんを救いました。母親は封印してきた気持ちを信頼できる人に語り、夫と向き合う勇気を得ました。妻に支えられた父親は息子と向き合う勇気を得ました。海斗くんは家族の勇気に支えられ、学校の仲間たちと向き合う勇気を得ました。
<編集部より>本連載で扱ってほしいテーマをkyousen@komei.jpにお寄せください。