ところが、夫の仕事の関係でゴタゴタがあり、息子の力を借りなければ、どうにもならない状態になってしまい、思い切ってひきこもっている子にSOSを送りました。最初は、相変わらず無反応だったのですが、親として立ち直ってくれると信じ続けてきたことや、母がどんな思いで産んだのかなど、いまでも思い出せば泣けてくるほど訴えました。
それでも無反応な息子に対して、夫までもがついに大声をあげてしまい、もうだめかなと思ったとき、私が夫に「この子は絶対に力になってくれる子だよ、誰が信じなくても私は信じる」と言うと、息子はすっと起きだして「明日から手伝う」といってくれました。以来、毎日家の仕事を手伝ってくれています。食事も一緒にできるようになり、ふつうに会話できるようになりました。
A これが子どもの問題を救う家族の力です。ご家族の災いが転じて福となすとは、まさにこのことでしょう。
母親が真剣に訴え、父親までもが大声を出し、もうダメかなと思ったときに、とっさに母親とった行動が息子の心を開く力になりました。親が子どもを信頼する力がお子さんに伝わった瞬間です。家族を信じて肯定する力が生まれると、息子さんは見事に親の言葉を受け取ることができました。それまでひきこもる息子が家族の問題役を引き受けていました。ところが、それ以上に大きな問題が家族の中に生じて、息子さんは問題を抱えた人の役から家族の問題を救う人の役に転換しました。ひきこもりという悪役を演じているうちは何も動きませんが、ひとたび家族を救うヒーローの役を与えらえると自ら進んでその役を引き受けます。
そのやる気を導き出したのがお母さんのひと言でした。「この子は力になってくれると絶対に信じる」という肯定的な期待が、息子さんのなかに長年眠っていた頑張る力を目覚めさせました。素晴らしいご家族です。
以前の息子さんは自室にこもり、風呂に入らず衛生観念さえ失った状態は、正常な思考能力が失われた心の病気さえ疑わせます。それまでどんな手を尽くしても動かなかった息子さんは、親のひと言でみごとに意欲を回復しました。
やる気や自信という人の意欲は、その人自身に備わった固定的な属性ではありません。その人が生きている文脈の中で流動的に変化します。失敗体験やまわりの人からの否定的なメッセージという文脈が与えられると、意欲は全く発揮されず、うつ状態やひきこもり状態に陥ります。ところが、その文脈が肯定的な期待に塗り替えられると、息子さんのように一気にひきこもり状態を脱し、意欲を回復することができます。
それを可能にしたのがまさに家族の力です。
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