その両方を否認せず、自分自身で受け止めることが、人間としての真の強さである。
人は誰でも支援者性と当事者性の両者を持っている。
そして、その両者は循環している。
その両者が自分自身の中で統合された時に、ありのままの人として、自信を獲得できる。
1) 支援者から入ってくる場合
なぜ、精神医学、心理学、看護学、福祉学などを専攻しようと思ったのですが?
よく大学生にこのような質問を投げかけると、次のような答えが返ってくる。
- 人の心理に興味を持ったから。人間に興味を持ったから。
- 悩んでいる人を助けたいと思ったから。
その思いは純粋で良いのだが、その陰には自分自身の悩みや家族の問題を理解したい、どうしたら解決できるのかを知りたいという動機が隠されている。私自身もそうだった。
良き支援者であるためには、当事者であってはいけないのか?
そんなことはない。人は誰でも当事者・支援者の両面を併せ持つ。
支援者性は自身の強さを基軸としている。
自分のパワーを他者に分け与える。その分だけのパワーを自分は持っているという前提である。
当事者性は、自身の弱さを基軸としている。
自分のパワー不足を他者から補ってもらう。
そのためには、弱さ(問題)を抱えているということを認めないとならない。
しかし弱さを開示するのはとても危険な行為である。
人は、誰しも弱みや悩みを持っているわけで、そのこと自体が問題ではない。
問題なのは、そこから目を逸らすことである。
自身の弱みにちゃんと向き合い、そのことを客観視、客体化できていることが重要である。
弱みを否認し、鎧で隠したり、acting outして隠そうとせず、抱いている否定的感情をコントロールできていることが大切だ。
誰しも、当事者席に座るのは辛いので、避けようとする。
私の所には、よく親が子どもの問題を解決したいと相談にやってくる。
診察を受けるのは、子どもで、親ではない。
子どものお腹が痛いから、、、親はあくまで付き添いであり、子どもを支援する親の立場をとる。
ところが、家族療法となると、親も当事者となる。
家族療法の考え方をよく説明する。
親が問題だと言っているわけではない。しかし、いずれにせよ親も当事者席に座らなければならない。
家族の問題点(マイナス)を取り除くのではなく、
家族の力(プラス)を引き出して問題を解決するのが家族療法です。
患者さんになったら、服を脱いで、診察を受ける。付き添い者は服を脱がない。
普段は服や鎧で隠し、外からは見えないようにしている自分の内面を見せないといけない。
自分がまな板(診察台)の鯉になる。
誰しも、診察台には上りたくない。服を脱いで自分の姿を晒すことは、とても勇気のいることだ。自分の恥ずかしい面、人には見せたくない、弱い面を見せなければらない。
それを避けようとするのは当然である。
人に関わる支援職に就こうとしなければ、鎧を一生まといつづけ、弱みを隠していても、十分に短い人生は全うできる。
しかし、支援者として他者の痛みに共感するためには、鎧を脱いで、自分自身の弱み(当事者性)から目を逸らさず、向き合わねばならない。
自分の弱みを認めることができたら、クライエントの弱みをそのまま認めることができる。
支援者としてとても重要な要素である、「深い共感性」を達成できる。
2) 当事者から入ってくる場合
うつ病体験や、子どものひきこもり体験など、自分自身が以前に当事者であった体験をもとに、同じことで悩む人を支援したいという人がいる。
いのちの電話などの市民支援団体に参加したり、インターネットを用いて支援を呼びかけたりする。
これは両刃の剣である。
自身の当事者性にしっかり向き合い、自分の弱さを隠さず認めることが出来ていれば、
同じ悩みを持つ人に対して、高い共感性をもとに支援することができる。
また、抱えている問題がある程度めどがつき、落ち着いていなければならない。
それが不十分で中途半端だと、支援者として機能するのは難しい。
なぜなら、支援者自身の当事者性を、無意識のうちにクライエントに投影してしまうからだ。
また、未解決の当事者性の部分にクライエントが近づくと、支援者自身が辛くなり、拒否反応を示したり、客観的に考えられなくなる。
たとえば、「父親」、「いじめ」といったテーマである。
その部分に近づくと、クライエントの気持ちに寄り添うことが困難になるばかりでなく、支援者自身の未解決の葛藤をクライエントに無意識のうちに投影してしまい、クライエントを傷つけてしまう。
自分自身の当事者性を解決するという目的で、支援者になってはいけない。
相手に上手に向き合うためには、まず自分自身に上手に向き合うことから始める。
田村毅研究室では、個人スーパーヴィジョンや、「グループ・スーパーヴィジョンの夏合宿」などで、安全に支援者自身の自己に向き合う場を提供しています。
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