愛着(attachment)とは、親密な人との安心・安全な結びつき感覚です。
これは幼い子どもと親との安全な結びつきから始まり、一生を通して心の安定に必要不可欠です。
愛着がイギリスで概念化された当初は、幼い子どもと親の間に形成されて、それがきちんと整備されれば、大人になっても大丈夫と考えられていました。つまり、「三つ子の魂100まで」、小さい頃にしっかり安定感を築けば、それが心の中に根付いて、一生それでやっていけるという考え方です。
しかし、その後の研究で、子ども時代だけでなく、一生を通じて、安心できる対象関係が必要なことがわかりました。
つまり、子ども時代にホッカイロを手に入れれば一生使えるというものではなく、一生を通して暖かい暖炉を身近にキープします。
愛着関係は心の安全基地です。
愛着関係が十分に成就すると、心が暖色系に染まり、暖かくなります。人との関わりをプラスに受け止め、人間関係がうまくいき、人生が暖かくなります。
愛着関係が不十分だと心が寒色系に染まり、冷たくなります。人との関わりをマイナスに受け止め、人間関係が冷たくなります。
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具体的にお話ししましょう。
自立しようとしている思春期の子どもを考えてみましょう。
思春期になると、自らの力で仲間関係を作っていくために、周りの人の空気を読み始めます。どんな空気か誰も教えてくれません。自分で感じ取ることが求められます。
まわりの仲間や友人が自分に話しかけアプローチしてききたら、それが何を意味するのかを読まねばなりません。相手はそこまで教えてくれません。自分で解釈します。
暖色系の心は周りからのメッセージをプラスに受け止め、その人は自分をプラスに思っているのだろう、自分はその人から認められているんだと好意的に受け止めます。
寒色系の心は、周りからのメッセージをマイナスに受け止めてしまいます。
もしかしたら、相手の人は私のことを嫌っているのでは、ダメな人と内心思っているのではないだろうか。自分は周りの人から認められていないと思います。
疎外感から一人ぼっちになり、自分の居場所ではない、自分がそこに入っていくのが辛くなり、その場から撤退を余儀なくされ、居場所を失い、ひきこもります。
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職場の人間関係を考えてみましょう。
暖色系の心は、職場の人たちのまなざしをプラスに受け止め、自分は認められていると感じます。まわりから支えられていると感じます。忙しい仕事や難しい人間関係でも、なんとか乗り切ることが出来ます。
寒色系の心は、職場の仲間たちからのメッセージをマイナスに読み取ります。自分は嫌われている、自分は認められていないと感じるので、同僚たちのことが嫌いになり、自分はダメな人間だ、この職場は向いていない、自分だけ阻害されているという風に感じます。
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思春期の子どもを持つ親の心を考えてみましょう。
親は子どもが幼い時は守る愛をたっぷり与えます。
思春期になると、放す愛を与え、自立を促します。
親の心が暖色系だと、子どもの周りの友達や先生からのメッセージをプラスに受け止めます。多少のいじめとか傷つき体験もあるかもしれないけど、うちの子どもはそれを乗り越えられる力を持っていると安心するので、親子の心の絆を緩め、子どもが親から離れて自立していく姿を安心して見守ります。
親の心が寒色系だと、周りの人たちからのメッセージをマイナスに受け止め、先回りして心配して、子どもを危険から守ろうとします。子どもに自立する力が備わっていても、それを見過ごしてしまい、子どもはいつまでも幼いと感じてしまいます。
まだ巣立つのは早い、家にいなさい。親があなたを守るから!
本当は子どもに自立してほしい、成長してほしいと願いつつも、心の不安感から先回りして心配して、子どもを手放すことができず、親の不安で子どもを縛り付けてしまいます。
子どもにそれを跳ね返す力があれば、親に反抗して、親の絆を断ち切ります。
子どもの跳ね返す力が弱ければ、親の不安をそのまま受け取り、自分は自立するにはまだ早いから、まだ子どものままでいるしかないと思い込みます。
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夫婦関係を考えてみましょう。
暖色系の心は、安心感に満ちています。相手が遠ざかっても心配しません。相手が自分に近づいてくると、暖色系のフィルターを通すと愛情というプラスの気持ちなります。お互いにプラスの気持ちで惹かれ合い、安全で愛情に満ちた関係を築くことが出来ます。
寒色系の心はとても孤独で、相手からの温もりを渇望しています。
しかし、相手のメッセージをどうしてもマイナスに受け止めてしまいます。自分のメッセージも相手にマイナスに受け止められてしまうことが怖くなり、言いたいことをなかなか言えません。
相手が近づいてくると怖くなり、不安を抱きます。逆に、相手が遠ざかるそぶりを感じると、自分は見捨てられた不安を抱きます。
夫婦がお互いに近づくことも遠ざかることもできず、相手の心もだんだんと冷えてゆきます。お互いのメッセージをマイナスに受け取り合うので、夫婦関係が冷たくなります
。一緒にいることが苦痛になります。
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心が寒色系に染まり、冷たくなると、とても生きづらくなります。
- 人をどう愛したらよいのかわからなくなります。
- 人が近づいてくることを恐れます。
- どうやって人に近づいたらいいのかわからなくなります。
- 人との関係がとても苦しいので、人との交流を閉ざします。
- あるいは、その逆に、必死に相手を求めるあまり、不適切に人を求めすぎてしまいます。人に怒りをぶつけたり、反抗的になったり、暴力を振るうこともあります。
- 自尊心を持てなくなり、自分はダメな人間だと自分を責めます。
- 生きていることがとても辛く、困難になります。
- 心が冷えるとうつ病、不安障害、境界性パーソナリティ障害などの心の病気にかかりやすくなります。
- 身体も冷えて、身体の不調をきたします。心身症や疲れやすさ、自律神経系の症状が出現します。
以上みてきたように、心の暖かさは、幸せな人生に必須のアイテムです。
では、どうやったら心の暖かさを取り戻すことが出来るのでしょうか。
どうやったら、心の安全を確保できるのでしょうか。
自分ひとりで、暖かさを発生することは、できないことはないのですが、なかなか難しいです。心に昔あった暖かさの残り火があれば、そこに風と酸素を吹き込んで、暖かさを取り戻すことが出来ます。しかし、火を起こす技術はキャンプでもなかなか難しく、経験と慣れが必要です。
ベストな方法は、身近で大切な人と触れ合い、暖かさを共有することです。
家族が一番です。親子や夫婦・パートナー、きょうだいや親族など。
あるいは、友人や仲間、教師や同僚など、家族以外の親しい人でも構いません。十分に近く、信頼し合える関係であれば。
遠いと暖かみが伝わらないので、十分に近づき、ゆっくりと伝えていきます。
- 愛着は愛情を通して伝わります。
- その人を尊重し、信頼し、全面的に認める深い愛情です。
- 愛情深いスキンシップやコミュニケーションを与えます。
- 安全な感覚を呼び戻し、安全を保障します。
- 肯定的なまなざしを与え続けます。
- 安全にお互いの心を語れる環境を整えます。
しかし、これもなかなか難しい時があります。
伝え合う人の心が十分に暖かくないと、相手に伝えることが出来ません。
暖かさが強いか、冷たさが強いか。
相手に近づき暖かさを伝えようとしても、相手の冷たさに負けてしまうと、暖かった人も冷たくなってしまうこともあります。
家族全体が持っている熱(安全な愛着経験)の総量によります。
それが不十分だと、家族同士で分け与えようとしても、家族全体が冷え込んでしまいます。
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セラピストは、心のエネルギーのガソリン・スタンドです。
セラピストの心の暖かさを伝え、クライエントの心を温めます。
そのためには、セラピスト自身が十分な心の暖かさを持っていなければなりません。
セラピストのためのガソリン・スタンドもあります。
それが、スーパーヴィジョンです。
クライエントに分け与えて冷えてしまったセラピストの心に、上級セラピスト(スーパーヴァイザー)が暖かみのガソリンを補給します。
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家族療法家は、家族全体のためのガソリン・スタンドです。
冷たくなった当事者が給油に来れれば良いのですが、事情があって来れない時、家族の誰かに来てもらいます。
来れる人にガソリンを与え、家族同士でシェアしてもらいます。
ガソリンを持ち帰っても、上手な伝え方がわからないと、うまく注げずこぼれてしまいます。
家族療法家は、家族同士で暖かみを分け与える方法を伝授します。
そして、家族全体が暖かくなるように見守ります。
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