やる気のエンジン(動力源)を親から子どもに付け替える時期が遅くなった例です。
タロウ君は有名大学に入学したものの、単位が取れずに休学中です。
タロウ君の家はとても優秀な家系。ご両親も、お兄さんも立派な学歴をお持ちです。
タロウ君も高校までとても優秀でした。
でも、本当はちょっと違っていたようです。タロウ君いわく、
「大学に入るまで、お母さんがずっとペースを作ってきてくれました。僕のことをとても熱心に関わってくれたのはホントは感謝しなくちゃいけないんだけど、今となってはウザったいとしか思えません。」
「自分はダラダラしがちで、つい勉強もサボっちゃうんだけど、母親が良い塾を見つけ、一緒に行ってくれたり、教材もどこからからすごいのを探してきて、たくさんやらされました。だから、今の大学にも合格できたんです。」
大学生になり、はじめてのひとり暮らし。当初はがんばっていたが、どうも調子がおかしいんです。高校までは先生も自分のことをよく知っていたけど大学は違います。一応担任の先生はいるらしいけど、学生のことはあまり知らず、ほったらかしです。自分で履修する科目も決めなければなりません。授業も高校よりもずっと難しくなりました。でも、まわりはとても優秀な人ばかりです。すっかり自信を失くしてしまいました。勉強しようと思ってもぜんぜん手につかず、眠くなってしまい、集中力が出ません。急にボケちゃったんじゃないかと思うくらいです。毎晩、明け方までネットゲームにはまってしまい、朝起きれなくなりました。
母親はとても心配して、何度か遠方からタロウ君のアパートまでやってきて、いろいろ世話を焼いてくれます。「もう、ウザったいから、ほっておいてほしい。でも、朝起こしてくれるし、食事とか楽だから良いのですけど。」
だけど集中力は回復しません。ぜんぜん単位が取れず、休学して実家に連れ戻しました。家ではパソコン以外は何もやる気がせず、ダラダラした生活です。親が注意しても息子はイライラするばかりで、最近は暴力をふるうようになりました。
心の病気じゃないだろうかと親は心配して、タロウ君がお母さんと一緒にやってきました。
私が診察したところ、どうも心の病気(精神病)ではありません。とても聡明で優秀な青年です。
ただし、やる気(意欲)の動力源はずっと親のエンジンを使ってきたようです。
この年代の子はなかなかカウンセリングに来たがらないのですが、幸いタロウ君は自分でもどうにかしたいと熱心に通ってきました。
タロウ君とご両親に協力してもらい、エンジンの付け替え作業です。
タロウ君はホントは性能の良いエンジン(能力)を持っているのだけど、どう使ったらよいか自信がありません。自信を回復する作業が必要でした。
ご両親にも何度か来てもらいました。子どもたちを愛する、とても良いご両親です。子どものことを思い、親として最善を尽くしてきました。そのために、ずっと親のエンジンを全開にして、子どものエンジンのことを忘れてしまっています。
私にも思春期の子どもがいるので、親の気持ちはよくわかります。たとえ高校生になっても、大学生になっても、親の目に映る子どもは可愛かった小さい頃の姿です。小学校に上がるまでは、親が一生懸命に子どもに手をかけて、愛情をたっぷり与えるのがベストです。それは、中学生くらいで終わりにしなければならないのだけど、その時期を逸してしまったようです。大学に入り、つまづいたタロウ君に、相変わらず一生懸命親のエンジンを差し出していました。
エンジンの付け替え作業には親の協力が必須です。いくら子どものエンジンが動き出しても、親のエンジンも動いていたらうまくいきません。ひとつの車にエンジンがふたつもあったら暴走してしまいます。親のエンジンを停止させること。その作業が必要です。
ただ、エンジンを止めればよいから簡単なことのようですが、実際やってみるとなかなか難しかったりします。
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