2017年4月30日日曜日

思春期の家族とゴールデンウィークの過ごし方

ゴールデンウィークが始まりました。
テレビのニュースでは、この連休を利用して海外に出かける人々や、渋滞で混み合う新幹線や高速道路が映し出されています。
しかし、外に飛び出す人ばかりではありません。
多くの人は、家にとどまり、普段と同じ生活を送っています。

私のクリニックに新規の患者さんが増える時期が、毎年2回あります。
ひとつが、9月の夏休み明け、
もうひとつが、5月の連休明けです。

4月に新しい年度を迎え、新しい職場、新しい部署、新しい学校、新しい学年とクラス。
当初は張り切って新しい環境に適応しようと頑張ります。
4月当初は、案外がんばれてしまいます。
新しい可能性を信じて、頑張ることができる時期です。
この時期を「ハネムーン期」と呼びます。

その頑張りがひと段落するのが、新しい生活からひと月ほど経った5月の連休過ぎです。
長距離を走るマラソンに例えれば、スタートのダッシュが落ち着き、周りのペースを見ながら、自分のペースを掴もうとする時期です。
どうも、うまくいかないと、薄々違和感を抱いていても、4月はなんとか乗り切れたりします。そして、ゴールデンウィークを終えると、ふと失速して学校や会社に行けなくなったりします。当初の頑張りが落ち着き、現実が見えてくる時期です。

十代後半から、二十代前半の思春期・青年期の若者は、馴染みの家から自立して、外の世界に居場所を見出し、飛び立とうとする時期です。すんなり外の世界に馴染んで、家族から巣立っていく人もいれば、上手に外の世界に溶け込めない人もいます。

A) 家にいるのは窮屈だから、古巣から離れて飛び立とうか???

B) それとも、もう少し巣の中に留まろうか(外の世界は怖そうだから)???

この両者の間で、迷う時期です。

このような思春期の子どもをお持ちの家族のために、連休の過ごし方をご説明します。

●子どもが自立できる家族のあり方を考えましょう
連休は、仕事や学校で忙しい家族がホッと一息をついて、家族の時間を持てる時間です。
それと同時に、家族の元気を子どもに伝え、子どもが自立に向けて前に進むきっかけを掴む時期でもあります。

大切な要点は二つです。
1)親と子の生活を思い切って切り離してみよう。
2)子どもと離れた親の元気な姿を、子どもに見せてあげよう。

この二つを具体的に説明しましょう。

●子どもをほっておこう
得てして、親は子どもを動かそう、子どもに何かを伝えよう、やらせようと思いがちです。しかし、それは必要はありません。
子どもは基本的にほっておきましょう。自分にやらせます。

せっかくのお休みなのですから、休養も大切です。
朝ねぼうもOKです。
せっかくの大切な時間なのに、寝てばかり、無駄な時間を過ごして、、、と思いがちですが、寝て過ごすのも、大切な時間です。
もちろん、ずっと寝ていたのでは元も子もありませんが、親が起こすのではなく、自分の意思で起きてくるのを待ちましょう。
恥ずかしながら、私の息子の今現在の様子を紹介します。次男は、この4月から大学生になり、新しい生活に入りました。父親と異なり、次男は新しい環境に適応するタイプではありません。連休中も友だちと交流するわけでもなく、一人で家にいます。昨晩遅く、ふいに外出して、どこかでお酒を飲んできたようです。今まで親や兄姉がお酒を飲んでいる中で、次男だけ子どもの別の世界にいて、お酒は飲まずにいました。大学に入り、お酒も飲む機会も出てきたのでしょう、飲酒を試しているようです。酔っ払って帰宅した次男は、普段は無口で父親との会話も避けているのに、珍しく陽気になって、「オヤジ!、酒飲むと気持ち良くなんだね!」と初めて酒の味を経験したようです。私は、特に咎めることもなく、勝手にやらせていました。今朝、起きてきた次男は「オヤジ、気持ち悪い。」と言います。「そうだよそれが二日酔いなんだ。酒を飲むと気持ち良くなるけど、その後に気持ち悪くなるんだぞ。」次男はそのことを初めて体験しました。朝食をとった後、また寝てしまいました。仕方ありません、新しいことを試して、失敗して、自らの体験から学んでもらうしかありません。
●子どものことから、気持ちを離しましょう
子どもから切り離された、親自身の、大人の時間を大切にします。
親子揃って、家族みんなで過ごしたい、、、と思いがちですが、そうではありません。
思い切って、気持ちを子どものことから離してみます。
親自身の心の中を、子どもの心配から解放してあげましょう。

●大人の時間を大切にしましょう
親が元気な姿を見せれば、思春期の若者も、親とは関係ない世界で、自分自身が元気になれます。
子どもに関わり過ぎないようにしましょう。
子どものことを心配しすぎないようにしましょう。
親が不安な気持ちになれば、子どもも不安になります。

●家で過ごしましょう
せっかくの連休だから、普段できないことを、何か特別なことをしなければ、、、と思いがちです。
しかし、それは必要ありません。特別なことをしようとは思わないで下さい。
外にお出かけしなくて構いません。
外は混んでいて、疲れるだけです。
家族同士で、家の中で、あるいは家の近所でできることを大切にしましょう。

●人と交わる時間を大切にしましょう
一人の時間も大切です。
ゆっくり休息して、朝寝坊して。
読書をしたり、普段溜まって手をつけられない仕事をする。
それも大切です。
しかし、家から巣立ち、外の世界に入ろうとしている子どもに、親が人と関わる見本を示すためには、親が一人ぼっちで落ち着くのではなく、あえて人と交流して落ち着く姿を見せてあげてください。

●夫婦の時間を大切にしましょう
ご夫婦が二人でいらっしゃる場合は、夫婦の絆を確認してみよう。
親子の絆よりも、大切なのはむしろ夫婦の絆です。
夫婦が楽しんで、元気を取り戻してください。
何か特別なことをするわけではありません。
普段の仕事や家事から少し距離を置き、お二人の時間を作ってみてください。
家の近所のカフェでゆっくり時間を過ごしてみましょう。
良い季節です。近所の馴染みの公園を散歩してみてください。
お酒の好きな方は、夕方にお二人で居酒屋さんに行ってみましょう。ただし深酒はしないように。

●外食より、家の食事を
ご夫婦お二人で、買い物に出かけてみましょう。
食べることは、家族生活の重要な楽しみです。
忙しい普段は、食事もおざなりに済ませてしまいがちです。
お休み中は、ゆっくりと食事のプロセスを楽しんでみよう。
近所のスーパーで、ご夫婦揃って食材を仕入れてください。
ご夫婦で料理をしてみましょう。
普段は滅多に厨房に入らない男子も、あえて台所で夫婦の時間を作ります。
そして、ゆっくり食事と会話を楽しんでください。
その余裕を作れるのが連休の良いところです。

●意味のない会話を楽しみましょう
目的のない、意味のない会話を試しましょう。
目標は、近所のおばさんたちの井戸端会議です。
男性はそれがとても苦手です。意味があること、目的があることしか話したくはありません。それ以外の会話は面倒、時間の無駄と考えます。
しかし、目的のないコミュニケーションこそ、人の心理的な距離を近づけます。
話す必要のない、どうでも良いことを話してみましょう。
空が綺麗だね。
風が強いね。
道端の花が綺麗だね。
このコーヒーおいしいね。
(「どこ産の豆かな?どうやって焙煎するのかな?」、、、などと理性的においしい原因を追及する必要はありません。ただ「おいしいね。」「そうだね。」だけに留めておきましょう)
意味のない会話のキャッチボールを楽しんでください。

●何もせず、一緒にいるだけの時間を大切に
家族にとって大切なことは、何かをすること、実行することではありません。
一緒にいる空間と時間が大切です。
何もしなくても、お二人が一緒にいるだけで楽しいですか?
無理、無理、、、とおっしゃる方がとても多いです。
夫婦の親密性を作るには、何か行動しないといけないと思いがちです。
出かけよう、映画を見に行こう、旅行に行こう。
映画に行けば、黙っていても、一緒にいる感覚を持つことができます。
大切なのは映画ではなく、一緒の場所と時間を共有している感覚です。
それを作り出すのは会話です。
夫婦の言葉を作ってください。
特別な何かをする必要はありません。
ゆったりと、一緒にいる感覚、家族の絆を取り戻して下さい。

●ひとりぼっちの方へ
今までは、ご夫婦単位で考えてきましたが、
伴侶がいない方、あるいは伴侶との交流が得られない方へのアドバイスです。
あなたにとって、過去あるいは現在の大切な人を思い浮かべてください。
その人との絆を手繰り寄せてみましょう。
それは、昔の友人だったり、きょうだいであったり、自分の親であるかもしれません。
その人にメッセージを送ってみましょう。
既に亡くなっていても構いません。
その人を思い、届けることのないメールを書いてみる。これは私がカウンセリングの中でよくお勧めする手法です。
あなたが子ども以外の人との絆を回復することができれば、子どもとの絆を手放すことができます。

●家の整理をしてみよう
家の中を片付けてみましょう。
既に使わなくなったもの、不要だけど、捨てるのはもったいない。また使うかもしれない、、、多分、もう使わないのだけど、捨てたくない。
そんなものが家の中に溢れていると、家が狭く窮屈になり、住みにくくなります。
それらを、思い切って手放して捨ててみるのも大切な作業です。
棚に上げられ何年も過ぎている荷物を棚から下ろし、中身を点検して、整理して、手放します。
すると、家の中に新たな空間が生まれ、とてもすっきり、気持ちが軽くなり、毎日が過ごしやすくなります。
これは、一つの比喩でもあります。
心の中の整理も同様です。
心の中に、過去の思いが棚上げされて残っていると、心が狭く窮屈になります。
それを思い切って棚卸しして、中身を点検して、手放します。
すると、心がとても軽くなり、毎日が過ごしやすくなります。
一人でその作業ができないときは、カウンセリングの中でご一緒に棚卸しをします。
●子ども抜きで、親が元気でいられる姿を、子どもに見せましょう
子どもは、とても親思いです。
うちの子は違うと思いがちですが、実は親思いなのです。それを表に表さないだけです。
親が子どもの幸せを望むように、子どもは親の幸せを望みます。
親が子どもの幸せに責任を取ろうとするように、子どもは親の幸せに責任を取ろうとします。
子どもを真剣に思ってくれている親が幸せでないと、子どもは真剣に親を幸せにしようとします。
親は自分を犠牲にしても子どもを救おうとします。子どもも自分を犠牲にしてでも親を救おうとします。

親にできる一番大切なことは、子どもから、そのような役割を解放してあげることです。
そのためにも、親は自分の力で幸せになってください。
子どもの力を借りないでください。
そして、元気になった姿を子どもに十分に見せてあげてください。
そうすれば、子どもは安心して(良い意味で)親を見捨てて、自然に外の世界に入ってゆけます。

2017年4月18日火曜日

浅田真央の涙と心の豊かさ

先週、引退発表した浅田真央ちゃんの引退記者会見は、テレビで何度も繰り返して放映されました。
私は彼女の涙に感銘を受けました。
日本を代表するスーパースターとして数々の栄光を手にし、国民のアイドルとしてお茶の間を沸かせた一方で、思うように行かず、悔し涙もたくさん流した彼女。

記者会見では多くの報道陣のカメラの前にして、最後は笑顔で終えたかったのでしょう、立ち上がり微笑もうとしますが涙をこらえられません。後ろを向いて涙を見せまいとするけなげな姿は私自身の体験とも重なり、共感を覚えました。

なぜ真央ちゃんは、そして我々は、溢れ出す涙を隠そうとするのでしょうか?

恥ずかしいから?
みんなのアイドルは、笑顔を振りまかねばならないから?
大人の涙は、恥ずかしく、避けようとします。

しかし、それは大切な役割を果たします。
診療してると、多くの方々が泣かれ、診察室のティッシュはどんどん減ります。
涙の心理的効用について考えてみました。

人生が始まり、幼い赤ちゃんはたくさん泣きます。
空腹だったり、眠かったり、泣くことがまわりに自分の意思を伝える唯一の言葉です。
赤ちゃんは未熟で無力な存在です。

子どもから大人へと成長する時、
「泣いてはいけません、我慢して、頑張りなさい」
と教えられます。
涙は、自分の気持ちがコントロール出来ず、暴走してしまった状態です。
泣き虫は弱さの象徴です。
真央ちゃんも、我々も、涙を克服して、涙など流さないほど強くなりたいと願います。

でも、涙を否認せず、自分の一部として受け入れることこそが、本当の強さに繋がると思います。

ここで、実際の相談例をご紹介します。

茂雄さん(仮名)は50代、息子のひきこもりの相談に、ご夫婦揃っていらっしゃいました。
家族のことを真剣に考える素晴らしい父親だと私は思いましたが、茂雄さん自身は息子に厳し過ぎた、叱ってばかりいたと反省しきりです。
茂雄さん自身も父親からいつも怒られていました。「ちゃぶ台返し」もよくあり、母親を泣かせていました。父親はろくに働かず、家族は借金を抱え、とてもみじめな子ども時代を送りました。
幸い、茂雄さんは成績がよく、涙をこらえ、悔しさをバネに人一倍がんばって、立派な社会的地位と財を築きました。茂雄さんは会社の部下たちからとても尊敬されています。

そういう茂雄さんにとって、頑張ろうとせず、努力を諦め、家でひきこもる息子は到底許せません。父親は息子に怒り、息子もそういう父親を拒否します。
茂雄さんから話を聞くうちに、茂雄さん自身も亡くなった父親に怒り、許していないことが語られました。

診察室でも、妻や私に怒りを爆発させることがしばしばです。
そんな茂雄さんが、初めて涙を見せた時のことを、私はよく覚えています。

カウンセリングの初期は、息子さんのことが話題の中心でしたが、やがてご両親のこと、とくに父親である茂雄さんの心の中にたくさんの怒りが溜まっていることに彼自身も気づき始めました。何もしようとしない息子の姿をみれば怒る気持ちも当然でしょう。

しかし、その背後には怒りとは正反対の、息子を純粋におもいやる優しいお父さんの気持ちもあります。

田村: 怒りを持て余している茂雄さんの率直な気持ちと、息子さんを思いやる気持ちを、息子さんに伝えてあげたらどうでしょうか?

茂雄さん: それは難しいなぁ、、、

田村: いや、茂雄さんなら、きっとうまく出来ますよ。

茂雄: いやぁ、そう期待されてしまうと、、、

と言った途端に、茂雄さんは突然大きな声で泣き出しました。
横でみている奥さんは、いったい何が起きたのかと、おどろいています。

今まで、茂雄さんは感情を封印して、理性でがんばってきました。
悲しみや不安などのネガティブな感情は、すべて怒りという感情(攻撃性)に転換して、それ以上近づけないようブロックしてきました。

私の言葉は、鎧で固めた茂雄さんが隠し持っている心の琴線に触れました。
そうすると、今までこらえていた感情の封が切られ、涙となって表出されました。

私が茂雄さんの涙を拝見したのは、先にも後にもこの一回だけです。
この後、茂雄さんは大きく変わりました、と奥さんは言います。
茂雄さん自身はそんなことないと否定しますが、子どもたちや妻への関わり方がとても優しくなったそうです。それまで息子さんと会話しようとしても緊張してうまく話せなかったのですが、父子がお互いに片意地をはらず、自然におしゃべりできるようになりました。

涙を隠し、泣かないことが強さではありません。
自分の気持ち(弱さ)を認め、受け入れ、それを大切な他者にも伝えられることこそ、本当の心の豊かさなのです。