2017年5月18日木曜日

ひとり親家族の子育てのコツ

3組に1組の夫婦が離婚する時代です。
「ひとり親」家族はたくさんいます。
しかし、残念ながら「ひとり親」のイメージは昔と変わらずあまり良くありません。
子どもが問題を起こすと、学校の先生や世間の人たちは、
「あの子はひとり親だから、、、」
と口に出して言わなくとも、内心そう思われたりします。
、、、経済的に困難でしょ。
、、、子どもの面倒を十分にみれないでしょ。
、、、離婚するような親はもともと、、、
といった具合です。

確かにひとり親、とくに母親と子どもの家庭は稼ぎ手が不在で、経済的に困難な場合が少なくありません。しかし、ここではひとり親と貧困の問題を分けて考えます。
親がふたりいても経済の困難を抱えている家族もいるし、ひとり親でも経済的な面ではOKな家庭もたくさんいます。詳しくは、一番下の<付記>欄を参照してください。

ひとり親であること自体は全く問題ではありません。
不登校やひきこもりなどの問題行動が、ひとり親に起きやすいということはありません。ふたり親でも、ひとり親でも、そのような問題は平等に発生します。
しかし、ひとり親家族に起きやすい問題があることも事実です。
何が問題なのでしょうか?
一言でいえば、親が元気をなくしている場合です。

★死別した場合、
親がそのショックと悲しみを乗り越えられないと、元気をなくします。
英子さん(仮名)は子どものことを相談するためにカウンセリングにやってきました。
しかし、話を深めていくと、いつも亡くした夫の話になり、悲しみの涙があふれてきます。子どもに向き合おうとすると、英子さん自身の悲しみに遭遇してしまいます。それが嫌で、英子さんは心から子どもに向き合うことができませんでした。
★離別した場合、
子どもに対する罪悪感。済まないという思いが、親の元気を削いでしまいます。
、、、親たちの勝手な都合で、子どもから親を奪ってしまった。
、、、働かなくてはならないから、子どもとの時間が十分にとれず、寂しい思いをさせてしまった。
そのような罪悪感が親としてのエネルギーを消耗させ、子どもに胸を張って強く関わることができません。つい甘く、過保護になりがちです。

本来ふたりいるはずの親がひとりになれば、家族のバランスは崩れます。しかし、新たなバランスを得ることができれば、全く問題なく親として機能できます。具体的には、どのようなことに心がけたらよいのでしょうか。
ひとり親の子育てのコツをまとめました。

1.親自身の気持ちを整理する
 死別した場合、喪失の悲しみがいつまでも長く続きます。特に自死で亡くした場合の負担は大きいです。悲しみに加えて、裏切られた怒りや、助けられなかった罪悪感などの辛い気持ちが重くのしかかります。
 離別するプロセスはとても辛いものです。別れるべきか、やりなおすべきか心の中で迷ったり、ふたりの間で合意できない場合、あるいは財産や親権で決着がつかない場合もあります。離婚した後も、元パートナーへの怒りや未練、その人を選んでしまった自分を責めたりします。
 このような気持ちを隠していたら、いつまでたっても心に残ります。秘密が守られ、否定や批判されず理解してくれる人に、その気持ちを何度も繰り返して語ります。話しても過去の記憶は消えませんが、そこにまつわる辛い気持ちを軽くすることができます。

2.罪悪感・自責感から決別する
はずかしい、子どもに申し訳ないというマイナスの気持ちを整理して、消化しましょう。
ひと昔前の時代は、離婚すること自体が社会のタブーでしたが、今は違います。
子どもたちは、親が思うほど離婚を気にしていません。
親は子どものために離婚を踏みとどまり、
子どもは親のために、「早く別れなよ」と言ったりします。
子どもに必要なものは温かい家庭と、良質な愛情です。それが十分に与えられれば、ふたりでもひとりでも構いません。
親が元気をなくし、悲しんだり辛い思いをしている姿を子どもに見せて、子どもに「お父さん・お母さんは大丈夫だろうか?」と心配させることが良くありません。

3.サポートを受けよう
子育てはひとりだけではできません。煮詰まってしまいます。
遠慮せず、あらゆる資源を活用しましょう。
祖父母やきょうだいの支援を得ます。もし、そこにシコリが挟まっているようなら、それを整理してください。
社会にはひとり親に対するさまざまな支援策が(まだまだ十分とは言えませんが)整いつつあります。恥ずかしがることはありません。堂々と申し込みましょう。
子どもの学校の先生にも隠すことはありません。学校は、家庭調査票などを通じて家族の情報を得ようとします。ひとり親であることを恥じずに伝えることが出来れば、先生は、
この親は教師・学校を信頼してくれているな。親はちゃんと困難を乗り越え、元気でいるな、と肯定的に評価してくれます。
こそこそ隠していたり、家族の状況を伝えられないと、この親はまだこだわって乗り越えられていないのだろうと、周りの人は否定的に受け止めます。

4.不在の親の肯定的なイメージを与えよう
両親が不仲であろうが、離れていようが、親は自分の命を授けてくれた大切な人です。自分の由来を肯定することで、自分自身を肯定できます。特に思春期に入り、自分とはなんだろうと、自分探し、つまり自我同一性(アイデンティティ)を形成するときに親に良いイメージを持てることが大切です。
性的アイデンティティ、つまり自分はどんな男性に・女性になるんだろうと迷うときに、同性の親がモデルとなります。息子では父親が、娘では母親がモデルです。

別れて住んでいる親との面会交流は大切です。
パートナーとしては失格であっても、子どもの親としてそこそこOKであれば、積極的に交流する機会を作りましょう。一緒に住んでいない親からも、見守られ、愛されているという実感は子どもにとって大切です。
その機会を子どもに与えるために必要な両親間の連絡は積極的にとります。

すでに十分おわかりのことだと思いますが、親が元パートナーを否定したり悪口を言ってはいけません。子どももその親を憎み、否定的に捉えてしまいます。

死別、あるいは事情があって面会交流ができない場合
別れたパートナーについて親が何も言わず、子どもが知らされていないと、子どもはイメージを作ることが出来ません。
しかし、親が別れたパートナーを肯定的に語ることは困難です。語ろうとすると涙があふれてきたリ、離婚する前のイヤな思い出がどうしても出てきます。子どもがいなければ、辛い気持ちを心の冷凍庫に凍結保存する選択肢もありますが、冷凍食品は消えることなくそのまま次の世代に受け継がれてしまいます。その負の遺産を持ち越してはいけません。
お母さんはまだお父さんのことを口にできないほど憎んでいるのだろう、怒っているのだろう。一般に、知らされていない情報は、否定的に捉えられてしまいます。
 実物の親とは会えなくても、子どもたちの心の中に肯定的な不在親のイメージがあることが大切です。
 否定するのではなく、何も言わないのでもなく、積極的に別れたパートナーの肯定的なストーリーを子どもに聞かせてあげましょう。
 特に、思春期の子どもは、これから自分がどのような大人になれるのかとても不安です。もしかしたら、自分も親のように「悪い人」になってしまうのだろうかと心配します。親が「良い人」であれば、自分も「良い大人」になる可能性が出現します。

 太郎さんはアルコールで何度も失敗して、朝起きれず、仕事ができなくなりました。病院でうつ病の薬をもらいましたが、一向に良くなりません。知り合いに紹介されて、私のカウンセリングにやってきました。始めのうちは、なかなか自分のことを話せません。話し出すと、父親に対する怒りが噴き出し、自分の気持ちの収拾がつかなくなることが怖かったのです。
 やがて、カウンセリングに慣れてくると、少しずつ父親を語り始めました。いつもお酒を飲んで大声で怒鳴り、母親に手を挙げていました。今でいえばDVです。酒で失敗しては仕事をクビになり、何度も転職を繰り返していました。太郎さんが幼いころ両親は離婚して、以来父親とは会っていません。太郎さん自身は父親の記憶はあまりなく、母親から聞いた悪い話ばかりです。私は太郎さんの話を丁寧に受け止めました。さんざん父親の悪い部分を語りつくした後に、良い話が飛び出しました。パンドラの箱のように。
 まわりに迷惑をかけ、どうしようもない父親でしたが、太郎さんが生まれたときは、子どものようにはしゃぎ、とても喜んだという母親の話を思い出しました。太郎さんは父親から祝福されて生まれてきたのです。あまりにも問題の多い父親だったので、そのことをすっかり忘れていました。
 太郎さんはここまで自分の父親のことを語り尽すことができて、とてもすっきり、おだやかな気持ちになりました。
 その後、太郎さんはアルコールで失敗する機会も少なくなり、新しい仕事では職場の雰囲気も良く、無事に社会に復帰してゆきました。
若者が自分を肯定して、前に進んでいくためには、自分の命の由来である親の肯定的な物語が必要です。
 子どもの近くにいる親は、胸を張って前を向いている姿を子どもに見せてあげて下さい。
 そして、子どもから離れている(亡くなっている)親の肯定的な物語を子どもに与えて下さい。

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(付記)
多問題家族、あるいは機能不全家族という呼び方があります。
家庭の中に、失業、身体や心の病気・障害、家族不仲、浮気、暴力・虐待、ネグレクト、犯罪行為、アルコールや薬物依存など複数の問題を抱えています。その根底には貧困問題があり、社会を信頼せず、まわりからの支援にも背を向けています。
 そのような家族では、たくさん抱えている問題のひとつとして離婚もあります。この場合は、離婚だけを取り上げても解決しません。総合的・包括的な支援が必要であり、それはとても困難です。
 今の世の中の多くの離婚家族はこの範疇には入りません。ここで取り上げるのは、たまたま両親が離婚していますが、それ以外は大きな問題もなく、普通の生活をしている家族です。

2017年5月10日水曜日

子どもの心と大人の心

「ひきこもり脱出講座」に参加された方から、講座の振り返りコメントを頂きました。
私がお伝えしたかった要点を、とても上手にまとめて下さいましたので、ご紹介します。

今回、印象に残ったことは、人は誰しも「大人の心」と「子どもの心」を持っているという田村先生のお話です。そして、そのお話の中で一番大切だと感じたことは、“大人の心”から出た言葉は、子どもの“大人の心”を育てていくということです。どうやら私は自らの“子どもの心”から、息子に言葉をかけ、息子の“子どもの心”をせっせと育ててきたようです。
 例えば、「あれはやったの?これはどうするの?ちゃんと○○しなさい。」これは完全に“子どもの心”からの声かけですよね。親は子どものためと思っていても、子どもからすると、自分のやることは親に心配されるに値すること、つまり低い自己評価を植え付けているにすぎず、ちっとも子どものためになっていなかったでしょう。では、誰のためだったのか。そう、他でもない私自身の不安を軽くするためだったのだと思います。私の中に、もう少し“大人の心”が育っていれば、自らの“子どもの心”を受け止め、息子には“大人の心”から声を掛けることができたでしょう。
 一つ希望の持てるお話がありました。“大人の心”は他者の“大人の心”に触れることで大人になっても育てられるというお話です。信頼できる友人やこのようなグループ、必要があれば専門職の先生方、そういった方々の助けを得ながら、自分の“大人の心”を育てていきたいと感じました。“大人の心”から子どもへ声を掛けるのであれば、表面的な言葉に捉われることはないということに共感しました。大切なのは、親の心の在り方なのだと気づきました。
私から、補足して子どもの心大人の心について説明します。

子どもの心(万能的自我)大人の心(社会的自我)という概念は、私の臨床経験から生まれた、私自身のオリジナルな用語です(注)。子どもの心は、人の弱さを象徴します。大人の心は、人の強さを象徴します。具体的には、次のような内容です。

子どもの心(万能的自我)

  • 自信がなく、できない、うまくいかないだろうと予想します。
  • 心の基本基調は不安、恐怖、心配です。
  • 失敗することを予期して、いつも不安で、心配しています。
  • 自分では力を持っていないので、誰かに依存しないと、ひとりではやっていけません。
  • 自分では責任を取るほど強くはないので、物事がうまくいかないかは、助けてくれた人の良し悪しによって変わります。うまくいかなかいのは、人のせいです。
  • 自分は弱いものと規定しているので、危険は避けなければなりません。失敗しそうな局面は極力避けます。
  • ソトに出て人と交わると傷つく可能性が高いので、基本的に外は避けます。保護する人によって守られたウチの世界で生活します。
  • 傷つくと修復できないので、傷つかない100%の状態を保とうとします。少しでも傷つきそうなときは、すぐに撤退して0%にします。やめてしまいます。
  • 100%の自分をキープするために、他者と折り合うことは拒否します。自己中心の世界にいます。
  • 保護してくれる人からは、100%全面的に肯定してくれることを期待します。
  • 無条件の肯定(愛情)を求めます。
  • 少しでも傷つける可能性のある人は拒否します。

大人の心(社会的自我)

  • 自分はできるはずだという、根拠のない肯定的な未来予測(=希望)を持ちます。
  • 心の基本基調は安心、満足、希望です。
  • 成功することを予期して、安心しています。
  • 何とか立ち回れる能力を持っているので、ひとりでもなんとかやっていけます。
  • ものごとがうまくいっても、うまくいかなくても、基本的には自分の責任ですから、人のせいにすることはありません。
  • もしかしたら失敗するかもしれない危険な局面にも挑戦します。
  • 多種多様な人がいて、傷つくかもしれないソトの世界にも出ていくことが出来ます。
  • 傷ついても、多分なんとか立て直すことが出来るので、傷つくことを恐れません。
  • 他者と折り合うために、100%の自分をあきらめ、自分を削ります。7割くらいに減っても、まだ70%の自分が残っているので、それでも自分らしさは失われていません。

さらに、子どもの心と大人の心は、以下のような特徴を持っています。
  • 子ども時代から大人へと成長する中で、心は「子どもの心」から「大人の心」へシフト(成長)していきます。その過渡期にあるのが思春期・青年期(10代前半から20代中ごろまで)です。上記のとおり、子どもの心大人の心は、かなり異なり、正反対の属性だったりします。過渡期(思春期)には子どもという定常状態から、大人という定常状態に進化するために、だれでもバランスを崩します。その中で、様々な問題が生じやすいのが思春期の特徴です。
  • すべての人は、子どもの心大人の心の両方を持っています。小さな子どもでもしっかりした大人の心の片鱗を持っています。立派な大人でも弱さ(子どもの心)を隠し持っています。「人は強くもあり弱くもある」ということは誰でも理解できると思います。誰もが持つその両面にうまく折り合っていくのが人間の営みではないでしょうか。
  • 子どもの心/大人の心のバランスは流動的です。置かれた状況によっていつも変化しています。ものごとがうまく行き、順調な時は、自分に自信を持ち、大人の心を発揮できます。逆に、失敗したり、ストレスが多い状況などでは自信を失い、弱気になって、子どもの心が顔を出します。まるで、小さな子どもに返ったように見えるときもあります。それを退行現象と言います。
  • 思春期前の小さな子どもが子どもの心を持っているのは問題ないのですが、思春期以降の大人になると、大人の心を使うことが期待されます。青年期から大人になっても子どもの心が前面に出てくると、辛くなり、とても苦労します。
  • ひきこもりは、思春期以降に、うまく大人の心に移行できない時に生じます。背が伸びる時期に個人差があるのと同様に、大人への移行は人によってゆっくりでも構わないはずなのですが、まわりが大人へ移行しつつあるときに、子どもの心が多いと人との関係がうまくいかず、そのことがストレスとなり自信を喪失して、人との交流を回避してひきこもってしまいます。ひきこもる期間が長引くと、ひきこもっていること自体が不安と劣等感につながり、心の元気さがますます低下して、悪循環に陥ってしまいます。
では、どうしたら子どもの心から大人の心へうまく移行できるのでしょうか?
ひとことで言えば、他者の大人の心に触れることです。
このことは、思春期の子どもにも、親世代の大人にも共通して言えることです。
自分の力は、成功体験によって証明されます。なにかを試み、うまく成就できれば、自分はできるのだという感覚(自信)を持つことができ、それが肯定的な自我を育てます。

何かを試みて、それが成功か失敗かという判断はどのようになされるのでしょうか。
テストで100点、学校や会社の合格通知、勝負で勝ったといった明確な判断基準があれば一番わかりやすいのですが、実際には、テストで70点とか、第一志望が落ちて第三志望に合格、といったように、こうなっちゃったけど果たしてこれは成功だろうか失敗だろうかと迷う場合が少なくありません。その時に、他者がそれでOKだよと承認してくれると、成功体験としてカウントができ、自信を得ることが出来ます。
どっちにもとれそうな体験を承認するためには、大人の心が必要です。そのような心をもっている他者が身近にいると、その人の元気さが伝わり、大人の心が醸成されます。

思春期の子どもは、学校や社会で人と交流す中で、失敗体験と成功体験の両方を得ます。失敗体験が先行して苦労することもあるでしょうが、人と交わり続けていれば、必ず成功を体験します。親が意識して子どもに関わらなくても、自然と子どもは成長できます。

問題は、ひきこもってしまった場合です。人との交流が閉ざされると、体験を得ることが出来ません。何も体験しなければ、心の成長も止まります。ひきこもっている子どもが唯一得られるのは家族との体験です。家族、主に親が子どもを承認して成功体験を与えます。そのためには、親自身が大人の心で機能していなければなりません。もし親の元気が少なく、子どもの心を使っていると、子どもに向けて出てくる言葉からは、必然的に心配や不安を伝えてしまいます。それは、子どもの子どもの心に肥料を与えてしまいます。
ひきこもっている子どもに、親が関わるときに大切なのは、まず親が心を整えて、大人の心で動くように心がけることです。しかし、これは難しいものです。なぜなら、子どもが問題を抱えている、ひきこもっているということ自体が、親にとっては失敗体験となるので、どうしても不安や心配が先行してしまいます。
その場合は、親自身が他の人から元気をもらいます。一番手っ取り早いのはご夫婦の間で元気を交換して、大人の心に整えます。そのために、ご夫婦の間でよく話し合い、支え合います。もし、それが得られなければ他の人を探しましょう。親族、きょうだい、友人、あるいは専門家など、信頼できる人を選びます。
私はそのような考え方でひきこもりのご家族に接しています。

冒頭の方が参加した「ひきこもり講座」では、私と参加者のみなさんが元気のキャッチボールをして、お互いに元気な心のエネルギーを備蓄しています。

注)「子どもの心」「大人の心」と言う呼び方は交流分析でも使います。
交流分析は精神分析理論の超自我・自我・イドという三つの心の様子の影響を受けています。子どもの心とはイド(本能的な快楽)、大人の心とは自我(現実的な常識)という分け方ですが、私の説く子どもの心大人の心は、肯定的な自我を作るプロセスという意味で、マリー・ボウエンの自己分化(Self-Differentiation)の概念に近いかもしれません。

2017年4月30日日曜日

思春期の家族とゴールデンウィークの過ごし方

ゴールデンウィークが始まりました。
テレビのニュースでは、この連休を利用して海外に出かける人々や、渋滞で混み合う新幹線や高速道路が映し出されています。
しかし、外に飛び出す人ばかりではありません。
多くの人は、家にとどまり、普段と同じ生活を送っています。

私のクリニックに新規の患者さんが増える時期が、毎年2回あります。
ひとつが、9月の夏休み明け、
もうひとつが、5月の連休明けです。

4月に新しい年度を迎え、新しい職場、新しい部署、新しい学校、新しい学年とクラス。
当初は張り切って新しい環境に適応しようと頑張ります。
4月当初は、案外がんばれてしまいます。
新しい可能性を信じて、頑張ることができる時期です。
この時期を「ハネムーン期」と呼びます。

その頑張りがひと段落するのが、新しい生活からひと月ほど経った5月の連休過ぎです。
長距離を走るマラソンに例えれば、スタートのダッシュが落ち着き、周りのペースを見ながら、自分のペースを掴もうとする時期です。
どうも、うまくいかないと、薄々違和感を抱いていても、4月はなんとか乗り切れたりします。そして、ゴールデンウィークを終えると、ふと失速して学校や会社に行けなくなったりします。当初の頑張りが落ち着き、現実が見えてくる時期です。

十代後半から、二十代前半の思春期・青年期の若者は、馴染みの家から自立して、外の世界に居場所を見出し、飛び立とうとする時期です。すんなり外の世界に馴染んで、家族から巣立っていく人もいれば、上手に外の世界に溶け込めない人もいます。

A) 家にいるのは窮屈だから、古巣から離れて飛び立とうか???

B) それとも、もう少し巣の中に留まろうか(外の世界は怖そうだから)???

この両者の間で、迷う時期です。

このような思春期の子どもをお持ちの家族のために、連休の過ごし方をご説明します。

●子どもが自立できる家族のあり方を考えましょう
連休は、仕事や学校で忙しい家族がホッと一息をついて、家族の時間を持てる時間です。
それと同時に、家族の元気を子どもに伝え、子どもが自立に向けて前に進むきっかけを掴む時期でもあります。

大切な要点は二つです。
1)親と子の生活を思い切って切り離してみよう。
2)子どもと離れた親の元気な姿を、子どもに見せてあげよう。

この二つを具体的に説明しましょう。

●子どもをほっておこう
得てして、親は子どもを動かそう、子どもに何かを伝えよう、やらせようと思いがちです。しかし、それは必要はありません。
子どもは基本的にほっておきましょう。自分にやらせます。

せっかくのお休みなのですから、休養も大切です。
朝ねぼうもOKです。
せっかくの大切な時間なのに、寝てばかり、無駄な時間を過ごして、、、と思いがちですが、寝て過ごすのも、大切な時間です。
もちろん、ずっと寝ていたのでは元も子もありませんが、親が起こすのではなく、自分の意思で起きてくるのを待ちましょう。
恥ずかしながら、私の息子の今現在の様子を紹介します。次男は、この4月から大学生になり、新しい生活に入りました。父親と異なり、次男は新しい環境に適応するタイプではありません。連休中も友だちと交流するわけでもなく、一人で家にいます。昨晩遅く、ふいに外出して、どこかでお酒を飲んできたようです。今まで親や兄姉がお酒を飲んでいる中で、次男だけ子どもの別の世界にいて、お酒は飲まずにいました。大学に入り、お酒も飲む機会も出てきたのでしょう、飲酒を試しているようです。酔っ払って帰宅した次男は、普段は無口で父親との会話も避けているのに、珍しく陽気になって、「オヤジ!、酒飲むと気持ち良くなんだね!」と初めて酒の味を経験したようです。私は、特に咎めることもなく、勝手にやらせていました。今朝、起きてきた次男は「オヤジ、気持ち悪い。」と言います。「そうだよそれが二日酔いなんだ。酒を飲むと気持ち良くなるけど、その後に気持ち悪くなるんだぞ。」次男はそのことを初めて体験しました。朝食をとった後、また寝てしまいました。仕方ありません、新しいことを試して、失敗して、自らの体験から学んでもらうしかありません。
●子どものことから、気持ちを離しましょう
子どもから切り離された、親自身の、大人の時間を大切にします。
親子揃って、家族みんなで過ごしたい、、、と思いがちですが、そうではありません。
思い切って、気持ちを子どものことから離してみます。
親自身の心の中を、子どもの心配から解放してあげましょう。

●大人の時間を大切にしましょう
親が元気な姿を見せれば、思春期の若者も、親とは関係ない世界で、自分自身が元気になれます。
子どもに関わり過ぎないようにしましょう。
子どものことを心配しすぎないようにしましょう。
親が不安な気持ちになれば、子どもも不安になります。

●家で過ごしましょう
せっかくの連休だから、普段できないことを、何か特別なことをしなければ、、、と思いがちです。
しかし、それは必要ありません。特別なことをしようとは思わないで下さい。
外にお出かけしなくて構いません。
外は混んでいて、疲れるだけです。
家族同士で、家の中で、あるいは家の近所でできることを大切にしましょう。

●人と交わる時間を大切にしましょう
一人の時間も大切です。
ゆっくり休息して、朝寝坊して。
読書をしたり、普段溜まって手をつけられない仕事をする。
それも大切です。
しかし、家から巣立ち、外の世界に入ろうとしている子どもに、親が人と関わる見本を示すためには、親が一人ぼっちで落ち着くのではなく、あえて人と交流して落ち着く姿を見せてあげてください。

●夫婦の時間を大切にしましょう
ご夫婦が二人でいらっしゃる場合は、夫婦の絆を確認してみよう。
親子の絆よりも、大切なのはむしろ夫婦の絆です。
夫婦が楽しんで、元気を取り戻してください。
何か特別なことをするわけではありません。
普段の仕事や家事から少し距離を置き、お二人の時間を作ってみてください。
家の近所のカフェでゆっくり時間を過ごしてみましょう。
良い季節です。近所の馴染みの公園を散歩してみてください。
お酒の好きな方は、夕方にお二人で居酒屋さんに行ってみましょう。ただし深酒はしないように。

●外食より、家の食事を
ご夫婦お二人で、買い物に出かけてみましょう。
食べることは、家族生活の重要な楽しみです。
忙しい普段は、食事もおざなりに済ませてしまいがちです。
お休み中は、ゆっくりと食事のプロセスを楽しんでみよう。
近所のスーパーで、ご夫婦揃って食材を仕入れてください。
ご夫婦で料理をしてみましょう。
普段は滅多に厨房に入らない男子も、あえて台所で夫婦の時間を作ります。
そして、ゆっくり食事と会話を楽しんでください。
その余裕を作れるのが連休の良いところです。

●意味のない会話を楽しみましょう
目的のない、意味のない会話を試しましょう。
目標は、近所のおばさんたちの井戸端会議です。
男性はそれがとても苦手です。意味があること、目的があることしか話したくはありません。それ以外の会話は面倒、時間の無駄と考えます。
しかし、目的のないコミュニケーションこそ、人の心理的な距離を近づけます。
話す必要のない、どうでも良いことを話してみましょう。
空が綺麗だね。
風が強いね。
道端の花が綺麗だね。
このコーヒーおいしいね。
(「どこ産の豆かな?どうやって焙煎するのかな?」、、、などと理性的においしい原因を追及する必要はありません。ただ「おいしいね。」「そうだね。」だけに留めておきましょう)
意味のない会話のキャッチボールを楽しんでください。

●何もせず、一緒にいるだけの時間を大切に
家族にとって大切なことは、何かをすること、実行することではありません。
一緒にいる空間と時間が大切です。
何もしなくても、お二人が一緒にいるだけで楽しいですか?
無理、無理、、、とおっしゃる方がとても多いです。
夫婦の親密性を作るには、何か行動しないといけないと思いがちです。
出かけよう、映画を見に行こう、旅行に行こう。
映画に行けば、黙っていても、一緒にいる感覚を持つことができます。
大切なのは映画ではなく、一緒の場所と時間を共有している感覚です。
それを作り出すのは会話です。
夫婦の言葉を作ってください。
特別な何かをする必要はありません。
ゆったりと、一緒にいる感覚、家族の絆を取り戻して下さい。

●ひとりぼっちの方へ
今までは、ご夫婦単位で考えてきましたが、
伴侶がいない方、あるいは伴侶との交流が得られない方へのアドバイスです。
あなたにとって、過去あるいは現在の大切な人を思い浮かべてください。
その人との絆を手繰り寄せてみましょう。
それは、昔の友人だったり、きょうだいであったり、自分の親であるかもしれません。
その人にメッセージを送ってみましょう。
既に亡くなっていても構いません。
その人を思い、届けることのないメールを書いてみる。これは私がカウンセリングの中でよくお勧めする手法です。
あなたが子ども以外の人との絆を回復することができれば、子どもとの絆を手放すことができます。

●家の整理をしてみよう
家の中を片付けてみましょう。
既に使わなくなったもの、不要だけど、捨てるのはもったいない。また使うかもしれない、、、多分、もう使わないのだけど、捨てたくない。
そんなものが家の中に溢れていると、家が狭く窮屈になり、住みにくくなります。
それらを、思い切って手放して捨ててみるのも大切な作業です。
棚に上げられ何年も過ぎている荷物を棚から下ろし、中身を点検して、整理して、手放します。
すると、家の中に新たな空間が生まれ、とてもすっきり、気持ちが軽くなり、毎日が過ごしやすくなります。
これは、一つの比喩でもあります。
心の中の整理も同様です。
心の中に、過去の思いが棚上げされて残っていると、心が狭く窮屈になります。
それを思い切って棚卸しして、中身を点検して、手放します。
すると、心がとても軽くなり、毎日が過ごしやすくなります。
一人でその作業ができないときは、カウンセリングの中でご一緒に棚卸しをします。
●子ども抜きで、親が元気でいられる姿を、子どもに見せましょう
子どもは、とても親思いです。
うちの子は違うと思いがちですが、実は親思いなのです。それを表に表さないだけです。
親が子どもの幸せを望むように、子どもは親の幸せを望みます。
親が子どもの幸せに責任を取ろうとするように、子どもは親の幸せに責任を取ろうとします。
子どもを真剣に思ってくれている親が幸せでないと、子どもは真剣に親を幸せにしようとします。
親は自分を犠牲にしても子どもを救おうとします。子どもも自分を犠牲にしてでも親を救おうとします。

親にできる一番大切なことは、子どもから、そのような役割を解放してあげることです。
そのためにも、親は自分の力で幸せになってください。
子どもの力を借りないでください。
そして、元気になった姿を子どもに十分に見せてあげてください。
そうすれば、子どもは安心して(良い意味で)親を見捨てて、自然に外の世界に入ってゆけます。

2017年4月18日火曜日

浅田真央の涙と心の豊かさ

先週、引退発表した浅田真央ちゃんの引退記者会見は、テレビで何度も繰り返して放映されました。
私は彼女の涙に感銘を受けました。
日本を代表するスーパースターとして数々の栄光を手にし、国民のアイドルとしてお茶の間を沸かせた一方で、思うように行かず、悔し涙もたくさん流した彼女。

記者会見では多くの報道陣のカメラの前にして、最後は笑顔で終えたかったのでしょう、立ち上がり微笑もうとしますが涙をこらえられません。後ろを向いて涙を見せまいとするけなげな姿は私自身の体験とも重なり、共感を覚えました。

なぜ真央ちゃんは、そして我々は、溢れ出す涙を隠そうとするのでしょうか?

恥ずかしいから?
みんなのアイドルは、笑顔を振りまかねばならないから?
大人の涙は、恥ずかしく、避けようとします。

しかし、それは大切な役割を果たします。
診療してると、多くの方々が泣かれ、診察室のティッシュはどんどん減ります。
涙の心理的効用について考えてみました。

人生が始まり、幼い赤ちゃんはたくさん泣きます。
空腹だったり、眠かったり、泣くことがまわりに自分の意思を伝える唯一の言葉です。
赤ちゃんは未熟で無力な存在です。

子どもから大人へと成長する時、
「泣いてはいけません、我慢して、頑張りなさい」
と教えられます。
涙は、自分の気持ちがコントロール出来ず、暴走してしまった状態です。
泣き虫は弱さの象徴です。
真央ちゃんも、我々も、涙を克服して、涙など流さないほど強くなりたいと願います。

でも、涙を否認せず、自分の一部として受け入れることこそが、本当の強さに繋がると思います。

ここで、実際の相談例をご紹介します。

茂雄さん(仮名)は50代、息子のひきこもりの相談に、ご夫婦揃っていらっしゃいました。
家族のことを真剣に考える素晴らしい父親だと私は思いましたが、茂雄さん自身は息子に厳し過ぎた、叱ってばかりいたと反省しきりです。
茂雄さん自身も父親からいつも怒られていました。「ちゃぶ台返し」もよくあり、母親を泣かせていました。父親はろくに働かず、家族は借金を抱え、とてもみじめな子ども時代を送りました。
幸い、茂雄さんは成績がよく、涙をこらえ、悔しさをバネに人一倍がんばって、立派な社会的地位と財を築きました。茂雄さんは会社の部下たちからとても尊敬されています。

そういう茂雄さんにとって、頑張ろうとせず、努力を諦め、家でひきこもる息子は到底許せません。父親は息子に怒り、息子もそういう父親を拒否します。
茂雄さんから話を聞くうちに、茂雄さん自身も亡くなった父親に怒り、許していないことが語られました。

診察室でも、妻や私に怒りを爆発させることがしばしばです。
そんな茂雄さんが、初めて涙を見せた時のことを、私はよく覚えています。

カウンセリングの初期は、息子さんのことが話題の中心でしたが、やがてご両親のこと、とくに父親である茂雄さんの心の中にたくさんの怒りが溜まっていることに彼自身も気づき始めました。何もしようとしない息子の姿をみれば怒る気持ちも当然でしょう。

しかし、その背後には怒りとは正反対の、息子を純粋におもいやる優しいお父さんの気持ちもあります。

田村: 怒りを持て余している茂雄さんの率直な気持ちと、息子さんを思いやる気持ちを、息子さんに伝えてあげたらどうでしょうか?

茂雄さん: それは難しいなぁ、、、

田村: いや、茂雄さんなら、きっとうまく出来ますよ。

茂雄: いやぁ、そう期待されてしまうと、、、

と言った途端に、茂雄さんは突然大きな声で泣き出しました。
横でみている奥さんは、いったい何が起きたのかと、おどろいています。

今まで、茂雄さんは感情を封印して、理性でがんばってきました。
悲しみや不安などのネガティブな感情は、すべて怒りという感情(攻撃性)に転換して、それ以上近づけないようブロックしてきました。

私の言葉は、鎧で固めた茂雄さんが隠し持っている心の琴線に触れました。
そうすると、今までこらえていた感情の封が切られ、涙となって表出されました。

私が茂雄さんの涙を拝見したのは、先にも後にもこの一回だけです。
この後、茂雄さんは大きく変わりました、と奥さんは言います。
茂雄さん自身はそんなことないと否定しますが、子どもたちや妻への関わり方がとても優しくなったそうです。それまで息子さんと会話しようとしても緊張してうまく話せなかったのですが、父子がお互いに片意地をはらず、自然におしゃべりできるようになりました。

涙を隠し、泣かないことが強さではありません。
自分の気持ち(弱さ)を認め、受け入れ、それを大切な他者にも伝えられることこそ、本当の心の豊かさなのです。

2017年3月15日水曜日

子どもの進路にエールを送る

人は、時に人生の大切な選択肢に出会います。
どちらの道を選択するか、迷い、立ち止まります。
その選択は、自らの意思で決めなくてはなりません。
そうしないと、自分の進む道に責任を持てなくなります。

〜〜〜

R君はとてもラッキーなことに、P高校とQ大学付属高校の両方とも受かりました。
・P高校は偏差値がより高く、一流大学に多数進学しています。
・Q高校は大学の付属高校で、スポーツなどの部活動が盛んです。
R君はどちらを選択するか迷いました。
父親はP高校を勧めました。
R君は父親の言うとおり、P高校に進みました。ところが、、、

優秀な生徒が集まるP高校のレベルは高く、中学までクラスでトップだったR君にとって、今まで経験したことのない大きなショックでした。希望して入った野球部も仲間や先輩とうまくいかず退部して、学校にも行くことができなくなりました。

R君は、次のように言います。
本当はP高校ではなく、Q高校に行きたかった。
大学受験を気にせず、好きな野球に打ち込みたかった。
P高校の野球部は僕に合っていない。
P高校に行けと言った父親のせいで、僕はこうなった。

R君の父親にもお会いしました。
P高校をRに押し付けたつもりは全くない。
ただ、父親の意見として、P高校に入って、大学はより高い目標を目指してみたらとアドバイスしただけだ。それも、強く言ったわけではない。
しかし、当時、仕事が忙しくて、Rと接する機会が限られていた。わずかな機会に言った一言が、Rの心に残っているんだろう。

R君は、
父親と落ち着いて会話したことがあまりない
と言います。
R君にとって、父親は話しにくい、畏怖する遠い存在でした。
その父親の一言を、必要以上に重く受け止めてしまったようです。

その後、R君と父親は話し合う機会を多く持ち、高校にも行けるようになり、無事に卒業しました。一浪の末、Q大学に合格しました。
P高校の同級生たちは、みなQ大学よりレベルの高い大学に進学しています。

初めからQ大学付属高校に行っていれば、こんなに悩んだり苦労せずに現役でQ大学に行けたのに、すごく回り道をしてしまった。。。

これも、R君にとっては大切な人生の回り道だったのでしょう。
R君はQ大学を卒業して、立派に社会に巣立って行きました。

〜〜〜

子どもがひきこもり始めた初期には、無理に働きかけたり励まさず、安心してひきこもることができる環境を家族が整えます。
しかし、これは初期の段階です。

ある程度の時間、休息できた段階で、親は安心してひきこもりから脱して前に進む力を与えます。
子どもが自らの力で前に進むことが一番なのですが、長期間ひきこもっていると、そのような力を見失ってしまいます。その時は、親が良い意味での指針を子どもに与えます。

しかし、これは親にとって想像以上に難しいものです。
・子どもの自主性を尊重したい。
・親の考えを押し付けたくない。
・親の影響を与えたくない。
と考えます。

〜〜〜

私の子どもの話をしたいと思います。
高校を卒業した次男は、第一志望のA大学と第二志望のB大学を落ち、第三志望のC大学に受かりました。
ところが、C大学の入学金を納めた後に、B大学から補欠合格の通知が来ました。
次男は、入学金はもう戻らないのかと尋ねてきます。
私と次男とのLINEのやり取りを紹介します(ほぼ原文のままです)。

父親:お前の人生だ。お金のことは気にせず、よく考えてごらん。

次男:どっちかっつーとC大の方がやりたいことできるんだよね(笑)。
B大の方が名前は良いから考えていたけど、あんまりやりたいことできないんだよねー。

父親:そうだ。名前とかブランドではなく、内容を見てお前が本当に誇りを持って打ち込めるかだ。
就職の時、文系はどうしても大学のブランドが効いてくる。その点、工学系は具体的に学ぶから、就職の時、大学で何を勉強したか聞かれると、この学生はマトモにやってきたか、遊んできたか、すぐわかっちゃうんだ。そういう意味でオマエが本当に打ち込める方に行きなさい。

結局、次男はC大学を選択しました。
私は内心、B大学を選んで欲しかったのかもしれません。
別の機会に、私は子ども達に次のように話したこともありました。

学歴社会。
大学のランクとか偏差値って、昭和の価値観なんだよ。
パパが十代の頃、日本は高度経済成長期だった。
たくさん努力したら、より多くの幸せが得られると、社会のみんなが信じていたんだ。
当時は終身雇用制だから、学校を出て就職したら、定年までその会社を勤め上げる。
学校のレベルと会社のレベルも、ある程度は相関していた。
今ほど豊かな社会じゃなかったから、賃金の高い会社の方がお金持ちになって、より幸せになるってのも、ある程度は正しかったのかもしれない。

でも、平成の今は違う。
経済成長は限界に達し、終身雇用制も崩れ、誰でも転職する時代だ。
高学歴でも、社会に出てからどんどん下がっていく人もいるし、その逆だっている。
パパはそういう人々をたくさん知っている。
つい最近も、一流企業で過労自殺が問題になったでしょ。
学歴の差が、年収や幸せに直結しなくなったんだよ。
なのに、昭和を生きて来た親や高校の先生やたちは、未だに偏差値とかにこだわっているんだ。そんなの、全然関係ないじゃん!

これは子ども達へというより、実は、未だに昭和の価値に囚われている私自身に対する自戒のメッセージなのです。
私は、クライエント家族の方々から多くのことを学ばせていただいています。
子どもの成長を見守る親の不安は、私もたくさん持っています。

・親の価値を、子どもに押し付けてはいけない。
・しかし、子どもに親の価値と期待を良い形で与え、前に進むエールを与えます。

ということも、学ばせていただきました。

次男に、
B大学に行きなさい。
とは言えませんでした。

・Aの選択肢も、Bの選択肢も、同等に可能であること。
・それを決めるのは次男自身であること。
・決める際の選択基準、考え方を与えること。
・子どもが選んだ道を肯定すること。

これらが、父親として子どもに言えるギリギリの線でした。

2017年3月2日木曜日

ひきこもり脱出講座の効用

ひきこもり脱出講座の参加者から、感想をいただきました。

 ひきこもり脱出講座に参加することが出来て、とても嬉しく思っています。
 今まで、ひきこもりの家族会や学校の親の会などには参加してきましたが、ひきこもりについての情報を得ることがメインとなり、親自身の変化や癒しには繋がりにくいと感じていました。
 初めての参加でしたが、今までの経験や気持ちを安心して話すことができました。田村先生や皆さんに受け止めていただくことで、また、皆さんのお話から気づきや学びを得ることで、この講座が親自身の成長を促してくれる場であることを実感しました。
 これから、この講座を通して私自身がどのように成長できるか、とても楽しみです。

ひきこもり脱出講座は今回で14回目となりました。
5−10名ほどの同じメンバーが、3週間おきに6回集まります。
前半は私の方からお話しして、後半は、参加者の方々から様々な話が出てきます。2時間があっという間に終わります。
初めて参加される方は、はじめは緊張されていますが、回を重ねるにつれ、だんだん慣れてきて、自分のご家族の話などをされます。なかなか他では人に話せないようなことでも、同じ境遇の方々なので、気軽に話すことができます。
そのようなやり取りを深めることで、単に知識を得るばかりでなく、親としての癒しや成長につながります。

 一番初めにこの講座に参加した時は、何かお話ししようとすると、涙があふれ出ていました。絶望感と不安感で押しつぶされ、自信を喪失していました。
 その後、何回か参加していくうちに、田村先生からの学びと、同じような悩みを抱えているみなさんの話を聴いて、少しずつ勇気が出てきました。
「子どもの親としてだけでなく、私自身の人生を楽しもう!」
と決心して、動き始めたら、家族が良い方向へ変わってきました。私が生きる楽しみを見つけて、喜んだり、感動したり、あわただしい日々を送っていたら、ちょうど良い親子の距離感が出来たようで、子どもは自分で考えて、自分で動けるようになってきました。

 6回のシリーズを終えた後も、続けて次のシリーズに参加される方も多くいます。
だんだんと、親の気持ちが前向きに変化していきます。すると、不思議なことに、子どもも気持ちが前向きになり、ひきこもっていたお子さんも、自然に外に出られるようになってきます。
 そういう意味では、「講座」というよりは、親の成長のためのグループ・カウンセリングに近いかもしれません。

子どもを信頼する力

私が子どもの頃、毎夏お盆の時期に愛媛県の母の実家に帰省しました。
親戚やいとこたちみんなで遊んだ海水浴は、とても懐かしい思い出です。
 
ある夏の思い出です。
たしか小学校高学年だったと思いますが、いとこのお兄ちゃんが沖にいるのを目指して、覚えたての平泳ぎで、プカプカゆっくり気持ち良く泳いでいました。
すると、突然手漕ぎの小舟が近づいてきて、「大丈夫ですか?」と、舟に乗せられ、岸に戻されました。
岸では親戚みんなが大騒ぎです。どうも心配性の叔母さんが、「タケシ君が溺れてる!」と叫んだのがきっかけだったようです。確かに岸から見れば潮に流され、溺れているように見えます。母はパニックで泣いていました。私としては、そんなに悪いことしていたわけじゃないけど、みんなに心配かけたのは悪いことだと思わざるを得ませんでした。
巣立とうとする思春期の青年たちは、自分の力で泳げるのか試します。
小さな子ども時代は、まわりの大人たちによって安全が確保されたプールで泳いでいます。
広い海はとても危険です。
勉強がうまくいかなかったり、友だちからいじめられたり、先生から叱られたり、クラブ活動の先輩や微妙な友人関係など。。。

親は不安です。
そんな危険な大海原を、この子は本当に泳げるのでしょうか?
泳ぎ始めは、みな下手くそです。はたで見てると、溺れるんじゃないかと心配します。
親としては、子どもを溺れさせるわけにはいきません。助け舟を出します。子どもは海から引き揚げられ、自分の泳ぎを習得する機会を失います。

本当に大丈夫なのでしょうか?
この子は、自分で何とか困難を乗り切る力を持っているのでしょうか?

その答えは、実際にやってみないとわかりません。
必死に泳ぐ当事者だって自信がありません。
周りの人が「あぶない!」と言えば、危ないし、
「大丈夫!」と言えば、大丈夫かなと思うしかありません。

親が心配のオーラを投げると、子どもも心配になります。
親が安心して子どもを見守っていると、子どもも安心して、何度か失敗しながらも困難な海を泳げるようになります。
ひきこもっていたAさんは、一大決心して、親から離れ自分ひとりで生活することにしました。親にとって、それまで身近にいたAさんの姿が見えなくなります。様子がわからなくなります。連絡しても、電話に出ません。コンタクトが途絶えてしまいました。ひとりで何してるのだろうか?とても心配になります。もしかしたら、死んでるかもしれない。。。そんな不安が親の心をよぎります。
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それではいけません。
子どもを心配し過ぎるのは、親のエゴです。
子どもを信頼してあげましょう。

この子は大丈夫だ。ひとりで泳げる!

その親の眼差しが、子どもを成長させます。
子どもを信頼せず、いろいろ干渉してくる親を子どもはとても嫌がります。
子どもは親の心配を拒否しようとします。
すると、子どもから拒否された親は傷つき、さらに心配します。
この悪循環が、巣立とうとする子どもを縛ります。