2018年8月19日日曜日

グループ・スーパーヴィジョン「夏合宿」

標高約1000m、真夏でも朝晩は肌寒い、爽やかな草津の高原で、二泊三日の合宿を行ってきました。

参加者は4名。医療、心理、福祉、教育など職種は異なっても、心の支援を行っているセラピスト(支援者)たちです。
普段、広尾のオフィスで行っているスーパーヴィジョンは、個人SVが1時間、グループSVが2時間ですが、「合宿」では3日間かけて計12時間の濃密なトレーニングを行います。毎夏行っており、今回が4回目(かな?)になります。
普段のSVでは、主にケース(クライエント)について語ります。
合宿では、より深いレベルのSVとなります。ケースというよりも、ケースを受け止める支援者自身の内面を語ります。

人は、否定的な体験と肯定的な体験を持っています。
否定的な体験とは、他者から否定される体験です。その結果、不安、恐れ、悲しみ、自信のなさ、自己否定、怒りなど、様々な否定的感情を持ちます。
肯定的な体験とは、その反対に、他者から肯定される体験です。褒められる、愛される、承認される、理解されるなどです。その結果、喜び、幸せ感、自己肯定、自尊心などの肯定的な感情を持ちます。

誰でも、肯定的・否定的、両者の体験を持ちます。
健康に生きていくためには肯定的体験が大切です。否定的体験・感情は知力・腕力・地位・経済力などの鎧を作って、その下に隠します。自分自身でも見えないように否認します。

普通の人はそれで良いのだと思います。人生80年(最近は100年だそうですが)、それでなんとか健康で幸せな人生を終えることができます。
しかし、否定・肯定体験のバランスが崩れ、否定的な体験・感情が多すぎると、健康に生きることが困難になり、様々な問題を生じます。

その場合、なんとか肯定的な体験を増やさなければなりません。
心の支援者は、否定的体験を肯定的体験に変換します。
そんなことできるのでしょうか?
過去の体験そのものを変えることはできません。
しかし、体験に与えられた意味づけを変換することは可能です。

否定的な体験が十分に表出され、他者により受け止められ、承認されると、否定的体験を生き抜いた自己が肯定されます。
その他者の役割を果たすのが心の支援者です。

しかし、その作業はとても困難です。
心理学や精神医学を学べば、クライエントの心理や病理を理性的に(理屈で)理解することはできます。病名・障害名のラベルをつけ、そこから導き出される治療法やお薬を与えることができます。
しかし、本当に必要なことは、クライエントを感性的に共感することです。
相手を受容し、共感すること。
これは簡単なようで、とても困難です。
黙ってひたすら聴いて「ふんふん」と相槌を打てば、一見共感しているように見えますが、そんなものではありません。
そのやり方を理屈(勉強)で学ぶことが不可能です。
理性は学ぶことで会得できますが、
感性は体験することでしか会得できません。

夏合宿では、その体験が実現します。
否定的体験を語れば、辛く苦しい感情が表象に上がります。普段隠している感情が表に出てきて、不安や恐れ、悲しみ怒りなどに圧倒され、自分が崩壊する不安を感じます。その恐怖を体験し、それが他者によってそのまま受け止められ、共感された時の喜びや感動を味わいます。その感覚は言葉では表せません。
  • 自分が自分のままでいられる感覚
  • 今まで堅く守っていた部分の力が抜けて、楽になる、リラックスできる
  • 背伸びしなくても良い自分を受け入れられる
  • 自信を回復した
このような表現で合宿の体験は表されます。
しかし、体験していない人にとっては、何を言っているのか理解できないでしょう。

このような体験を経ると、支援者は自分の否定的体験・感情をセラピーに利用できるようになります。今まで隠されていたブロックが解除され、クライエントの体験を、自分の体験を参照できるようになります。
言葉では説明できない感性が相手に伝わり、受け止められ共感される安心感を、クライエントに自然に伝えることができるようになります。

今回も、参加者たちは、そのような体験を持ち帰りました。

2018年7月12日木曜日

ひきこもり脱出講座(18)参加者の感想

第18回ひきこもり脱出講座&交流会が終了しました。
6回参加された方々の感想をご紹介します。
みなさん、親としての自信を少しずつ回復されている様子がよく伝わってきます。
  • みなさんの日ごろ思っていること、感じていることを共有させていただき、自分と同じ思いをされているんだなぁとしみじみ思いました。
  • みなさんの家族に共通して、共感できるものがあり、悩みを持つ我が家にとって唯一の連帯を感じる時間でした。講座の日の夕食は夫婦で飲みながら「この部分はウチも同じだけど、この行動はちょっと違うね。」などと話をしています。
  • 毎回、新しい気づきと勇気を頂く場でした。恐れずに、子どもに対応していきたいと気持ちを新たにしました。
  • 6回の講座、ありがとうございました。守る愛だけじゃなく、放す愛のことを教えていただき感謝しています。思っていることを子どもに伝えたり、アドバイスすることも、「心の温度を上げて」感情的にならずにできるようになりました。
  • 考えすぎると、躊躇して、思っていることを口に出さないことが結構思い出されます。前に進むために、夫婦ふたりで、子どもに当たり前のように働きかけていこうと思います。
  • 娘がよく「ママにはいつも笑顔でいて欲しい。」と言っていたことを思い出しました。子どもが生まれる前からも、生まれてからはもっと辛くて、子どもに当たってしまっていた。それを後悔ばかりしていましたが、これまでのことに区切りをつけて、これからは前向きに子どもに接していこうと思います。
  • 子どもと腹を割って話すこと、言いたいことを言えること、親子の機能を回復することを目標に、一歩を踏み出せる勇気を持ちたいと思います。
  • 辛いと感じているその気持ちが、みな同じなのだ、共有しているのだということが腑に落ちました。心の内を家族で話し合う時間を持つ。これが大切ですね。うちはそれが出来ていなかったと思います。
  • 先生から、もっと子どもに働きかけて良いと言っていただき、これから実行してみようと思います。
  • ひきこもりの原因は何なのか?生まれつきなのか、脳に障害があるのかもしれないと思ってしまいます。→コメント1
  • 親の勉強会などでは、「暖かく見守る」「焦ってはいけない」という指導が優先されるので、今回参加させていただいて、親が怖さを乗り越えてどんどん働きかける大切さを勉強しました。いつもブレずにいることは困難ですが、自信を持って、働きかけられるようになりたいです。→コメント2
田村からのコメントを補足します。
1)ひきこもりの原因はどうでも良いのです。生まれつきかもしれません。生まれた後かもしれません。
でも、親はなぜ、そのように思ってしまうのでしょうか
?それは、親の責任逃れをしているにすぎません。もし、生まれつきで脳に障害があるのなら、親の役割を免責されるからです。
親のせいで、親が十分に役割を果たしていなかったから、子どもがこうなったという思考様式もやめましょう。よく子どもや周りの人たちは「親のせいでこうなった」と言います。親に責任を押し付けてきます。
それを真に受けてはいけません。一番大切なのは過去の経緯ではなく、これから親として何が出来るかということです。生まれつきか、生まれた後か、どちらでも、これから果たす役割は同じです。そこに真剣に向き合っていきましょう。

2)親は子どもをしっかりと自立へ導く責任があります。
 暖かく導くことが重要です。そのやり方を講座では徹底的に学びました。
みなさんがよく勘違いするのは、「暖かく見守る」「焦ってはいけない」という専門家の指導を、「何もしないでほっておく」と受け取ることです。これでは、ネグレクトです。
 しかし、親の不安や焦りを子どもに伝えてはいけません。それはマイナスの働きかけです。それを避けるために専門家は「暖かく、、、」「焦らずに、、、」と指摘します。
しかし、暖かく導くやり方がわからないと、なにもせずに見守ることになってしまいます。多くの専門家は、そのやり方を教えてくれません。だから、中途半端な指摘しかできません。私は、そこに焦点を合わせ、親が自然に暖かくなれるように支援しています。
 立ち止まっている子どもに「見守る」という大義のもとに何もしないのは、結局のところ、子どもに働きかけるのが怖い親の不安感を「働きかけない」という態度で伝えていることになります。
 まず、親としての自信を回復することが大切です。そうすれば、何も難しいことを考えなくても、自然に暖かく働きかけるようになります。
 しかし、そう簡単に自信は回復できません。そこをポイントに、私は相談や講座を進めています。

2018年6月11日月曜日

映画「万引き家族」

カンヌ映画祭で大賞をとった「万引き家族」をひとりで観に行きました。
涙腺爆発!
しかし、なぜ泣いたのか自分でもよくわかりませんでした。
半日経って振り返ると、多分、家族の本当の温かさに触れたからじゃないかなと思います。
でも、まだよくわからない。
もう一度、観に行きたいと思います。

私は、映画は趣味ではなく、話題作をたまに観に行く程度なので、映画の出来とかはよくわかりません。
映画から逆照射された、普段お会いする家族のことを考えていました。

みんな家族の温もりを求めているのだと思います。
家族はとても大切だから、お互いに求め合い、期待します。
それがうまく回れば、とても温かくなるのだけど、
うまく回らないと(機能しないと)、傷つけ合ってしまいます。
家族という執着や決まりや枠組みがあるから、家族は成り立つんだけど、同時に傷つけ合ってしまう。
みんな、
家族がいるおかげでとても幸せになり、
家族がいるおかげで、とても不幸にもなります。

むしろ、一から出直して作ったほうがやりやすいのかもしれません。
でもそれはありえない話。映画の世界の話です。残念ながら。

というようなことを、観た後で考えました。
もう一度観たら、もう少しマシな考えも出てくるかもしれません。

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というわけで、2日後にもう一度観ました。
二度目は泣けませんでした。そのかわり、なぜ一度目に泣いたのかがわかりました。
描かれている家族の不遇な境遇とかそういうものではありません。
人と人が、家族が、本当に繋がった瞬間に感動したのだと思います。
でも、それってうまく繋がっている時は見えないものです。
それが引き剥がれそうになった時、悲しみと共に、根底にある温かさに触れることが出来ます。それは、私自身の、そして私がお会いする多くの家族の経験に裏打ちされています。

また、役者さんたちの演技にも感動しました。一番は、やはりカンヌ映画祭の審査員も指摘していた、尋問を受けた信代が涙を流すシーンです。
「溢れ出る涙を無造作に広げた指で拭う仕草、にらみつける目つきからは、ただならぬ悲しみや怒りがひしひしと伝わってくる。」

その怒り・悲しみの根底には、純粋な愛があるんですよ。

<これは、二度目に見た後のメモ書きです>
家族はホントは繋がりたい。
でも親子の血の繋がりとか、夫婦の期待とかが先行しちゃうと、かえってうまく繋がらなくなっちゃう。いっそ、そういうのが無い方が純粋に上手く繋がる。

期待が上手く成就しないと傷つく。ムカついて相手も傷つけてしまう。
きずが古くなり落ち着いてくれば、傷に触れ合って、弱さで繋がれる。それは人間的な深い繋がり。でも傷が深く生々しいと、触れられると痛くて拒絶してしまう。繋がることができなくて、バラバラになっちやう。
家族って、そういうものなんだ。

2018年6月2日土曜日

中国のひきこもり事情

先週末は、上海で「ひきこもり」のワークショップを3日間開催してきました。
40名ほどの参加者はカウンセラーなどの専門家が大半でしたが、何人かひきこもりの親(当事者)もいました。

中国へは、学会で何度も往復していますが、直接人々と触れ合い、教えるのは3月の武漢に続いて2回目です。

 武漢での初回は私にとってカルチャーショックでした。日本の聴衆はおとなしく、促しても質問・意見があまり出ません。中国ではその正反対。私の話をさえぎり、自分の問題を解決してほしいと質問の嵐でした。仕方がないので、当初の予定を変更して、私が講義をするのではなく、参加者が抱えている問題の公開コンサルテーションに切り替えました。事例を募っても、日本では躊躇してだれも手を上げないことが多いのですが、武漢では手を上げるどころか、指名する前に勝手に前に出てきてコンサルテーションの椅子に座ってしまいます。
 今回は2回目なので、そんな状況も予期しながら、なんとか参加者のニーズに応えられました。

我々が持つ中国のイメージは概ね否定的です。
声が大きく、車内でもどこでも平気でケイタイで話している、厚かましく割り込んできて、自分ばかりを主張して、礼儀をわきまえないといったイメージを私も抱いていました。
 中国で心理学関係の学会やワークショップを行うと、日本では考えられないくらい多くの人々が参加します。中国は人口が多いからなのか、心理学へのニーズが高いのだろうかなどと思いつつ、自由にものを言えない一党支配社会で、心の自由な開放を促す心理学やカウンセリングが成り立つのだろうかと、疑問を抱いていました。

今回、ナマの人々の声に実際に触れてみて、そのような疑問が払しょくされました。文化や社会に付与されたステレオタイプではなく、人間はどこでもそう変わるものではないと思いました。

日本に比べると、中国やほかのアジアの国々は、ひきこもりに対する専門家の理解や、社会の対応策も遅れています。「不登校・ひきこもり」の分野については、(残念ながら)日本が群を抜いて先進国です。中国社会ではカウンセラーやセラピストが少なく、不登校・ひきこもりを人間的に理解するすべがなく、医者に行くと「うつ病」と診断されて、強い薬を飲まされます。日本のように発達障害やアスペルガー障害(自閉症スペクトラム)といった概念も専門家や社会の中にまだ浸透していないようです。
 
日本と中国やほかのアジア文化で似ているのは次の点です。

  • 不登校・ひきこもりが多い。これらは世界中どこでも存在していますが、その頻度や数はアジア諸国が抜きん出ています。といっても、私が見聞きしているのは韓国、台湾、中国、香港、マレーシア、シンガポール、タイなどで、他の国は知りません。
  • 親の教育期待が高い。子どもに良い教育を願うのは、世界中の親に共通しています。日本では、私が子どもの頃の高度経済成長期には「教育ママ」が当たり前でした。しかし、バブル崩壊以降は教育ママの弊害も指摘されるようになり、あからさまな教育期待は影を潜めましたが、今でも日本の親の隠れた教育期待は高いと思います。中国では、あからさまに、明確に、教育期待が高く、子どもへプレッシャーをかけています。
似ていると同時に、日本と中国が大きく異なる点もあります。

  • コミュニケーション様式が違います。日本は遠慮の文化:出過ぎることは忌避されて、相手に迷惑をかけてはいけない、そのために相手に気を遣い、自己主張はあまりせず、相手を尊重して、自分は引っ込めた方が良いと考えます。中国ではその逆です。遠慮せず、自分を守り、主張して、どんどん前に出ていきます。
  • その違いが、親子関係にも反映しています。不登校など、子どもに問題が生じると、日本では初めの頃は「行きなさい!」と無理やり強制したり、怒ったり、親は主張しますが、効果がないことがわかると、親はひっこめ、腫れ物を扱うように子どもに遠慮して何も言えなくなります。
  • 武漢と上海で多くの不登校のケースを経験しましたが、「腫れ物扱い」のパターンは見られません。すべてのケースで親はしつこく子どもを怒り、強制して、その結果、子どもも親も疲弊していました。
中国の不登校を経験する前には、日本の「遠慮文化」が「腫れ物扱い」を生み、不登校・ひきこもりの回復を遅らせているという仮説を抱いていました。しかし、中国でも不登校が多いという事実から、この仮説は成り立たなくなりました。そこで、次の仮説を立てました。

不登校・ひきこもりの根底には、親子の愛着の強さがある。

 アジアでは、親子関係が一生続きます。
 それは、我々にとって当たり前なことですが、欧米ではそうではありません。もちろん、一生親子の縁は切れませんが、青年期のLeaving Home, Launching Childrenというライフサイクル以降は親子の愛着が弱まります。
 親子は一生、相互扶養の責任を負います。お互いに元気な時は自立して離れています。しかし、どちらかが元気でなくなり、助けを必要としたら、親子がその責任を負います。
 子ども時代、自立するまでは親が責任を持つのは万国共通です。
 思春期以降の子どもに対して、欧米では親は責任を取りません。子どもが精神的に未熟でも、家を追い出します。というか、家を出るのが当然なことで、親が子供の面倒を見ると言う発想・選択肢はありません(最近はそうも言えなくなりましたが)。社会で十分に機能しない若者はホームレスになります。ヤング・ホームレスは欧米に多く、アジアではほとんどいません。高齢者に対しても、子どもは心配してどうにかしようと立ち回りますが、子どもが親の介護の責任をとろうとはしません。社会がその責任を負います。
 日本やアジア諸国では、親子のどちらかが元気でなくなったら相互に責任を持ちます。思春期・青年期になっても社会で機能しない若者は、親が責任を負います。彼らの居場所は家の中(ひきこもり)であり、路頭でホームレスになりません。高齢者の社会的介護が発達してきたにもかかわらず、成長した子どもは年老いた親の責任を負うのが当然の親孝行(善行ではなく、人として当たり前のこと)と考えます。
 アジア諸国に共通した、生涯続く親子関係の強い愛着は美徳であり、優れたサポートシステムです。機能しない若者は家族に囲まれ安住の地を得て、ホームレスや犯罪、薬物依存、暴力などの少ない社会が実現されます。
 しかし、その分、成長した子どもを抱える家族は大きなストレスと不安を抱えます。その不安の対処方法が日本と中国で大きく異なることが分かりました。
 多くの日本の親子は、愛着が不安定になると回避行動をとります(fearful avoidance)。相手を傷つけ、自分が傷つくことを恐れ、気持ちを引っ込めて、距離をおきます。それが若者にとっての社会不安(不登校・ひきこもり)であり、親が子どもに遠慮して、腫れ物を扱うように子どもに何かを言うことを恐れ、何も言えなくなってしまいます。
 中国では、不安定な愛着の親子は相手にしがみつき、距離を縮め、葛藤状態になります(clinging)。気持ちを押し出して相手に関わり過ぎて、否定的な感情(怒り)の渦に巻き込まれます。中国の子どもたちの不登校は、社会不安というよりは、親のメッセージに対する反抗(resistance)という印象を持ちました。

 私は、今回を契機に、またワークショップやスーパーヴィジョンを求められており、これから中国やアジア諸国に出かける頻度が増えそうです。20世紀後半のアメリカの時代(Pax Americana)は終焉し、これからはアジアの時代です。大国である中国が経済的に発展し、北朝鮮問題が今後解決されれば、今後アジアの勢いは世界を凌駕するでしょう。
 中国とのスーパーヴィジョンはZoomでのオンラインも視野に含めています。世界がどんどん身近になっています。

2018年5月23日水曜日

五月病の傾向と対策

「五月病」とは、4月から新しい職場や学校に入り、あるいは転勤したり、学年が進みクラス替えがあり、5月に入っても新しい環境にうまく適応できません。そのために、やる気を失ったり、不眠・疲労感・食欲不振などの症状が出て、学校や職場に行きにくくなることです。
人は、始めの頃は心機一転がんばれるものです。4月中は報われなくても頑張れますが、5月の連休でしばらく学校や職場から離れ、連休明けに頑張ろうとしても、息切れしてしまいます。4月からスタートして5月に息切れするから「5月病」と呼ばれますが、これは5月に限ったことではなく、一年中いつでも起こり得ます。

医学的な病気ではなく俗語です。医学的な診断名としては「適応障害」になります。

生活環境の変化が原因ですが、そのまま長引くとうつ病や不登校、さらに長期化すると「ひきこもり」に発展することもあります。

上手く適応できない原因は、ストレスです。
新しい仕事や仲間が負担に感じることが直接のストレスですが、本人の内面を分析すると、自分はこうありたいという理想像と、そうはうまくいかないという現実像との乖離(ギャップ)がストレスとなります。
自分がこうありたいという理想像とは、たとえば、もっとがんばりたい、勉強や仕事の成果を出したい、周りの人に認められたい、友だちを作りたいといったことです。

「五月病」チェックリスト
次の項目で4つ以上当てはまる場合は「五月病」が疑われます。

  1. 何となくやる気が出ない
  2. 朝起きても気分が晴れない
  3. 学校(仕事)に行くのが億劫だ
  4. 食欲があまりない
  5. 自分はこのままで良いのだろうかと不安になる
  6. 眠ろうとしてもよく寝付けない
  7. まわりの人は、まだ私のことをわかっていない
  8. 眠りが浅く、夜中に目が覚めることがある
  9. 以前と比べて疲れやすくなった
  10. 自分は「ダメ人間」と思う
  11. 今の学級(職場)は自分に合っていないと思う
  12. 自分だけ取り残されている感じがする

家族用チェックリスト
家族から見て、次の4項目以上が当てはまると要注意です。

  1. 学校(職場)に行きはじめた頃より元気が落ちている
  2. 朝起きてくると機嫌が良くない
  3. 休みの日は寝ていたり、家にいて活動的でない
  4. 朝、出かけるのが辛そう
  5. 学校(職場)のことを尋ねても答えようとしない
  6. 家族との会話が減った。
  7. 学校・職場の人間関係がうまくいっていないようだ
  8. 食事で食べる量が減った
  9. 家でイライラして家族に当たることが増えた
  10. ゲームやお酒などに逃げている
  11. 表情が暗く、憂うつそうだ。
もし「五月病」かなと思ったら、次のことを試して下さい。

  • ストレスの発散に心がけましょう。人は生活の中で常にストレスを受けています。それを溜め込まず、放出しましょう。
  • そのために出来ることは、気分転換です。自分が好きなこと、楽しめることを積極的に行ってください。自分の気分転換のレパートリーを複数用意してください。それは人によって異なります。たとえば私の場合はスポーツ(身体を動かすこと)、好きな人とおしゃべりすること、カラオケで思いっきり歌うこと、お酒を飲むことなどです。
  • お酒、買い物、ギャンブルなどがレパートリーの人は、やり過ぎに注意しましょう。いずれも、節度を守った適量ならストレス発散に効果的ですが、やり過ぎると依存症になり、かえって悪化します。
  • 睡眠を十分に確保してください。寝付きにくい場合は、あなたに合った寝付く方法を試しましょう。
  • 困った状況や気持ちを人に打ち明けてみましょう。秘密を守り、信頼できる人に伝えるだけで、気持ちがとても楽になります。
  • 考え方を転換しましょう。
    • がんばり過ぎてはいけません。心に余裕を持ちましょう。
    • 焦らず、ゆっくり構えることが大切です。少し慣れ、まわりが見え始める1ヶ月後は、だれでも多かれ少なかれ困難を感じる時期です。その時期を通り越して、3ヶ月や半年たてば、必ず状況が変わってきます。あるいは人によっては1年、2年とかかるかもしれません。それくらいの時間的な余裕をもって、焦らず、臨みましょう。
    • マジメになりすぎてはいけません。良い意味での「いい加減」さが大切です。100%を達成しようとせず、7割か8割で十分と捉えましょう。
      • 会社の上司や、試験担当の先生が120%を求めてきても、無視しましょう。
    • 理想とプライド(自分への期待)を下げましょう。いつまでも理想を追い求めてはいけません。等身大の自己像を作っていきましょう。
これらのことは、五月病を未然に予防するためにも、すべての人に大切なことです。

次に、家族やまわりのひとが出来ることについて説明します。
  • 当事者に声をかけましょう。悩んだり、落ち込んでいる人には、声をなかなか掛けづらいものです。しかし、思い切って声をかけてあげると、たとえ答えられなくても安心するものです。
  • ただし、まわりの人(家族)も一緒になって悩んだり心配してはいけません。心に余裕を持って、当事者に接してあげて下さい。
  • 話をよく聞いて、置かれた状況やその気持ちを十分に理解してあげましょう。
  • アドバイス(解決策)や叱咤激励は不要です。解決策はその人自身が時間をかけて見出すものです。先回りして解決してあげようとしない方が良いです。そのままを冷静に受け止めてあげましょう。


2018年5月11日金曜日

マンガでわかる家族療法

私の学会仲間で、日本の家族療法の一人者、東(ひがし)豊さんが書いた本(マンガ)をご紹介します。

マンガでわかる家族療法 親子のカウンセリング編

私のオフィスの待合室にも置いてありますので、お時間があったらお読みください。

マンガなので読みやすく、家族療法の実際の様子やそのやり方が、分かりやすく描かれています。その冒頭の章は「不登校」の家族で、子どもとその両親との面接が描かれています。私の臨床体験とすごく共通しているので、私なりの目線で解説を加えたいと思います。

家族療法はマジックの治療法、とよく言われます。
今まで長い間学校に行かず、ひきこもっていた人が、信じられないように再び学校に行き始めます。
その訳は、他の流派(〇〇療法)では考えられない、ユニークでダイナミックなやり方をするからです。その様子を本の事例をもとに紹介しましょう。
このご両親は、スクールカウンセラーとお医者さんから、
「無理強いしてはいけません。本人の自主性を大切にしてそっと見守りましょう」と言われたことを3年間守り続けました。
これはとても大切な原則です。
特にひきこもり始めた初期は、学校に行きなさいと無理強いは禁物です。
なぜなら、親がマイナスの影響を与えてしまうからです。
それが功を奏して、2-3週間で学校に復帰する場合もよく見られます。
普通の(家族療法以外の)カウンセラーができるのはここまでです。

家族療法では、さらにもう一歩深めます。
ひきこもっている期間が1-2ヶ月を過ぎたら、親が積極的にプラスの影響を与えます。しかし、それは結構難しいものです。このマンガでは、その様子が見事に描かれています。
「母親と父親が協力して下さい。」
これも、とても大切です。
しかし、一般のカウンセラーは、どのようにしたら協力できるかまでは、具体的に教えてくれません。ここが、夫婦関係を専門に扱う家族療法の得意分野です。

実は、相談に来られるほとんどのご両親は、すでに十分協力しています。
少なくとも子どものために協力しようと、一生懸命努力しています。
しかし、それがうまくいかず、母親と父親の力が相殺してしまい、結果的に、子どもには何も伝わっていません。
両親は協力して、熱心に相談にやってくるのですが、残念ながら、夫婦の間に見えないシコリがあり、夫婦の力を削いでしまいます。
家族療法では、隠れたシコリを見つけ出し、うまく解除します。
すると、父親も母親も、のびのび自分らしく家族に関わることができるようになり、結果的に、子どもは元気を回復します。
マンガに描かれた両親は、苦悩する子どもに大きなプラスの力を与えています。
専門用語でエンパワーメントと言います。
しかし、家族心理を十分理解していない通常のカウンセラーや、当事者たちにとって、それが「プラスの力」であるとは思いもよりません。むしろ、マイナスになるから、そんなことはしてはいけませんと言うでしょう。
ここがとてもダイナミックな視点です。
子どもに問題が起きると、家族は自信を失くし、持っているはずのパワーを隠してしまいます。
家族療法は、子どもの力を信じ、両親の力を信じて、家族の潜在的なパワーを復活させます。その結果、子どもの問題が見事に解決します。

これ以上本の内容を書くと、ネタバレになりますので、あとはどうぞ本を手に取ってお読みください。

2018年5月10日木曜日

「怖くて言えません」拒否される恐怖

1) 一郎さんは、息子の太郎くんと話をしたいと思っています。
「なぜ、止まっているんだ?」
「今のままではいけない。前に進んでごらん?」
しかし、どうしても言えません
はじめて太郎が学校を休んだ時、無理に引っ張って学校に行かせました。失敗しました。
2回目に行かなくなった時、太郎に話しかけたら拒否されて、自分の部屋に行ってしまいました。
今回も、太郎に話しかけたら、また拒否されるのではないだろうか。
そう思うと、とても怖くて言えません
心がフリーズしてしまいます。

2) 二郎課長は、部下の太郎に言わなくてはなりません。
「そのやり方ではよくない。こうやりなさい。」
しかし、どうしても言えません。
以前、太郎に指示したら、「はい」と返事だけは良いのですが、無視して直そうとしません。
太郎を叱りました。
頭にきていたので、きつく叱りすぎてしまいました。
以来、太郎は私のことを嫌っているようです。
また太郎に伝えたら、また無視されるのではないだろうか。
そう思うと、とても怖くて言えません

3) 春ちゃんは、親友の夏ちゃんと一緒にお昼のお弁当を食べようとしたら、夏ちゃんは別の子と一緒に食べ始めました。
春ちゃんは、夏ちゃんに無視されました。
夏ちゃんは私のことを嫌いになったんだ。
もう夏ちゃんにはお弁当いっしょに食べようと、怖くて言えません
学校なんか行きたくありません。
  • 自分にとって大切な人にNoと言われるんじゃないだろうか?
  • 拒否されるのではないだろうか?
そう思うと、何も言えなくなってしまいます。
メッセージを伝えることがとても怖くなります。
拒否された経験が、相手と関係性する自信を失います。
また拒否されることが怖くて、相手に向き合えなくなります。
言いたいことを言えなくなります。
その結果、コミュニケーションが途絶えてしまいます。
言うべきことを言えていないことは、相手も十分にわかっているものです。
「ああ、怖がって言えないんだな。」
何も伝えられないという事実が、自分の不安な気持ちを相手に伝えてしまうことになります。そして、相手も不安にさせてしまいます。
あるいは、不安が高じて突っ込みすぎてしまいます。怒りや攻撃性となり、相手を傷つけます。
それも、怒りの根底にある不安感を相手に伝えていることになります。

4) 20代の四郎さんは、親友の毅さんに思い切って相談しました。
もう一度、花子さんをデートに誘いたいんだけど、どうしよう、怖くて言えないんだ、、
多分、花子さんも僕のことを気に入ってくれているのは、普段のそぶりでわかる。
でも、怖いんだ。
一回目のデートはうまくいったんだけど、二回目誘ったら、その週末は用事があるからと断られてしまった。
一回目のデートで僕に幻滅したんじゃないだろうか?
そう思うと、どうしても言えないんだ
いっそ、花子さんのことを諦めようかとも思ったけど、それもできない。
僕の中で、花子さんへの愛着は切れないんだ。

親友の毅さんは、四郎さんに言いました。
怖さを乗り越え、自信を持って、相手に伝えてごらん!
花子さんは、「ちょっと待って。今はダメ。」
というかもしれない。
他の用事があるからか。
あるいは、まだ気持ちの準備ができていないのかもしれないよ。
新しい世界に飛び込むのは不安でしょう。迷っているのかもしれない。
安心を与えてあげなさい。
四郎が、本当に花子さんのことを思っているのなら、その気持ちを伝えてごらん。
真意は伝わるものです、、、そのことを信じましょう。

しかし、同時に関係性を切る選択肢もあります。
もし花子さんのNOが明確なのであれば、彼女を諦める勇気が必要です。
自分のYESと、相手のNOと、両者を尊重します。
相手のNOを無視して自分のYESを強要すると、ストーカーになります。
相手にダメージを与えてはいけません。傷つけてはいけない。

3)春ちゃん、親密な相手に拒否られることは、とても怖いですね。
もうそんな体験したくないでしょう。
学校に行かなければ、さらに傷つくことから自分を守ることが出来ます。
でも、夏ちゃんはホントに春ちゃんのことを嫌いになったのかな?
学校に行かないと、それを確かめるチャンスも失ってしまうよ。

2)二郎課長は、配置転換がない限り、部下との関係性を継続しなければなりません。
恐怖を惹起する関係性を無理して継続すると、病気になってしまいます。
その恐怖心をどうにか小さくしなければなりません。
思い切って、部下の太郎と直によく話し合ってみてはどうでしょう。
あるいは、部長に相談してみては。
どうにか恐怖心を減らす工夫が必要です。

1)一郎さんは、息子に言わなくてはなりません。
太郎くんは、人と関わることを怖がっています
お父さんも、息子と関わることを怖がっています
一郎さんは、そうやって「人と関わる=怖さ」を息子に伝えています。
父親は、人と関わる安心と喜びを息子に与えて下さい。
そのためには、まず、一郎さん自身がそれを経験しなくてはなりません。
フリーズしている状態では、いくら「そうしなければならない」と理屈でわかっても、できません。
太郎君との交流を再開するために、まずお父さんのフリーズを解凍します。
その方法はふたつあります。

A)フリーズの由来を突き止めます。
息子に無理に働きかけて失敗した体験があります。
しかし、それだけではないでしょう。
息子との関係性以外の、過去の親密な関係性がフリーズしている場合がよくあります。それを突き止めます。
それを意識の俎上に挙げることで、昔のフリーズと、今のフリーズを分離します。昔のフリーズが、今のフリーズに影響しなくなります。
それが十分できていないと、無意識下で、昔と今のフリーズが連結して、昔の怖さがそのまま息子に向かう怖さに投影してしまいます。

B)一郎さんの、今の心を温めましょう。
親密な関係性の中で、支えられる暖かさ、共感してくれる暖かさを得て下さい。
そのためには、大切な人(家族や友人)の協力が必要です。
特に、一郎さんの場合は、妻との関係性、ご自身の父親との関係性が大切です。そこを温めましょう。

太郎くんは、内心、前に進みたいと思っています。前に進まないといけないことはちゃんとわかっています。
でも、怖くて進めません。
進むか、進まないか、迷っています。
お父さんが働きかけたからと言って、すぐに「はい」とは言えないでしょう。
今、お父さんの勧めを聞き入れられず拒否しても、お父さんには諦めて欲しくない、また働きかけてきてほしいと心の底では願っています。
もう一度働きかけてくれたら、今度は「はい」と言おうかな、と思っているかもしれません。迷っている時はそういうものでしょう。

自信を持ってごらん。
気持ちは必ず通じるものです。
逆に言えば、それくらい努力しないと、望みは成就できないんだよ。
迷うのはわかる。
怖いのもわかる。
でも、そこを突っ込まないと、相手だって、突っ込めません。

心が恐怖に占領されている時は、何をやってもうまくいきません。
いくら努力しても、(a)突っ込みすぎるか、(b)突っ込めずに離れすぎてしまうかのどちらかになってしまいます。
まず、恐怖を取り除くことです。
心に余裕を持たせます。車のハンドルの「あそび」と同じです。
ショックを柔らかく吸収してくれる「遊び心」です。
楽観的な(希望的な)見通しも必要です。
もしかしたら、うまくいくかもしれない。。。
そんなプラスのイメージが少しでも生まれれば、心がリラックスできます。

現状を打破して、新しい世界に飛び込むためには、
「大丈夫だよ。そんなに心配しないでやってみよう。」
と言ってくれる人の存在が必要です。
確固として見守ってくれる他者が身近にいれば、思い切って勇気を出して、前に進むことができます。

お父さんは太郎くんをしっかり見守ってください。
私は、お父さんを見守ります。