児童・思春期精神科医、家族療法 Child and Adolescent Psychiatrist, Family Therapist 精神科コンサルテーション(不登校・ひきこもり、家族ミーティング、男性外来、夫婦関係) 専門家支援(スーパービジョン、講演・研修、精神科医・臨床心理・教育関係者、子ども家庭福祉) International Psychotherapy; Adolescent, Marriage and Family Therapy.
2021年1月27日水曜日
ひきこもり連載(5)安心を与える
ひきこもり:求められる支援(5)公明新聞2021.1.21.安心を与える母性と父性の両方の愛情が必要
家族の力でひきこもる人をどう救えるのか。一言で言えば、人と関わる安心を与えることです。それは二段階あります。
第一段階は本人の気持ちを受け止め、安心してひきこもる環境を整えることです。ひきこもる気持ちの中核は、人と関わる不安です。学校、職場、家庭などの居場所で受け入れられ、価値がある人と認められれば、大きな安心と幸せをもたらします。逆に向き合ってくれず、否定的に評価されると、その場にいること自体が不安となり撤退します。避難した家でも家族の人が認めてくれないと、本人は生きる居場所を失ってしまいます。
第二段階は、人と関わる安心感を与えることです。人は思春期を経て大人に成長する中で、自分の思い通りになるピーターパンの世界から下界に降りてゆきます。子ども時代は母性的な無条件の愛情を受け取る「わがままの世界」です。この世に生まれた肯定感と自分は価値がある人間だという確信=プライドを得るために大切なことです。
一方、下界は自分の思い通りにならない世界、わがままが通用しない世界です。他者と折り合う中で100%のプライドが傷つき、6割か7割に縮んでしまいます。ここで父性的な愛情が必要です。リスクに挑戦して傷ついた子どもを遠い距離から温かく見守ります。
自分のプライドを下方に調整できないと、100%完璧にこなすか、全くやらないゼロのどちらしか選択できません。母性愛だけでは、子どもは安心してひきこもることはできても、社会に飛び立つことはできません。 母性を母親が、父性を父親が担当するとは限りません。父親・母親が役割を交換したり、ひとり親が両方の愛情を与えることも十分に可能です。
逆に、親が不安の中で生きていると、安心を子どもに与えようとしても、意図せず不安感を与えてしまいます。その場合、まず親が一人の人として安心感を醸成することが必要です。そのためには、安心な人とつながることが大切です。
2021年1月21日木曜日
ひきこもり連載(4)家族ができること
家族はひきこもり問題を解決する大きな資源です。
本人は人と関わることに大きな不安を抱え、家族以外の人を避けています。唯一関わることができる家族が、人と関わる安心感と自信を与えます。
1)葛藤期:挫折したことに本人も家族も不安を抱き、葛藤や衝突が起きる。
「家族は何も刺激せず、本人のペースと自主性に任せて待つべきだ」と、よく専門家は言います。初めの数週間はその通りなのですが、自閉期以降は異なります。家族は良い刺激を与え、人と関わる安心と自信を与えます。しかし、実際には家族がどうしたらよいのか分からず、長期化した、ひきこもりに立ち尽くしているケースが多く見られます。要点は、マイナスの刺激ではなく、プラスの刺激をどう与えるかです。
特に効果的なのが心理的に遠い家族との交流です。例えば母親とは近いが父親と遠い場合、父親との関係回復がひきこもり脱出の大きな鍵になります。しかし実際には容易でありません。過去の葛藤や失敗体験から、家族がどう関わるべきかを見失っているからです。
そのためにも、同じような体験を持つ親同士が交流し体験を分かち合い、自信を回復することが有効です。この20年来、ひきこもりの支援は民間からスタートしました。KHJ全国ひきこもり家族会連合会は、全国に散らばる草の根的な家族会をまとめています。
厚生労働省では、10年前からひきこもり支援事業を展開し、「ひきこもり地域支援センター」を全国に指定しています。例えば、東京都ひきこもりサポートネットでは、電話、メール、訪問で相談窓口を設け、地域若者サポートステーションや地域の支援活動を紹介しています。
ひきこもり連載(3)二重のひきこもり
10年以上ひきこもっている次郎さん(仮名)のことは、ご両親にとって深刻な問題です。自室に閉じこもり、家族と食事をすることもなく、母親と必要最低限の会話をするだけです。本当は、これからどうしたいのかを話し合いたいのですが、以前に、その話題を持ちかけて大変なことが起きました。以来、その話題には触れず、腫れ物のように関わってきました。
ひきこもりは親のせい、不適切な養育が原因だという「家族原因説」が世間にはびこっています。そのために親は自信を失い、家族の恥と感じ、周りの人に支援を求められなくなります。
確かに、子どもをしっかりした人間に育て、自立させるのが親の役割です。子どもがいつまでも自立できなければ、親がその役割を十分に果たせなかったと考えるのもよく分かります。
親としても思い当たることもあります。仕事が忙しかったから、親自身の生活が大変だったから、親がストレスを抱えていたから。さまざまな理由から、子どもにキツく叱り過ぎた、あるいは先回りして心配し過ぎたなどと反省する親は少なくありません。
世の中の親たちは気付かずに、たくさんのマイナスを子どもに与えます。しかし、それでよいのです。完璧な親はいません。それでも子どもは育ちます。親はマイナスだけでなく、たくさんのプラスも与えているはずです。
多くのひきこもり家族は「二重のひきこもり」に陥っています。本人は自信を失い、他者のまなざしを気にして人との関わりを回避します。親は子どもに接する自信を失い、わが子のひきこもり状態が人に知れることを回避します。
社会のひきこもり支援は、まだ不十分ながらも以前に比べれば整いつつあります。ひきこもりの解決は、二重のひきこもりから回復することを意味します。その第一ステップは、家族が社会の支援とつながることです。家族が具体的にできることを次回ご説明します。
ひきこもり連載(2)誤解
このような社会的ひきこもりが受ける誤解について説明します。
誤解その1:インターネットやゲームが原因である。
確かに一日中ゲームばかりやっている姿は、依存症と言えます。しかしそれは結果に過ぎず、原因ではありません。お酒や薬物、ギャンブルなど依存症の本質は、生活に適応できず、居場所を失っていることです。苦しみを忘れるために、刹那的な安らぎを与えてくれる世界に依存します。決してゲームにやりがいを見いだし、楽しんでいるわけではありません。
誤解その2:自分のことを何も考えていない。
誤解その3:ひきこもって楽をしている。
確かに現実に向き合わず、怠けているように見えます。しかし、決して楽をしたいから、ひきこもっているわけではありません。実際はその逆です。今の状況から抜け出さないといけない、周りに迷惑をかけていることはよく分かっています。
誤解その4:社会の人々との関わりを拒否している。
確かに就業や就労、友人関係、支援者など、人と関わりを拒みます。支援の場を提供しても、そこに関わることができないのが、ひきこもり支援の困難さです。本人としても人と関わらなければ生きていけないということは十分に分かっていますが、他者が自分のことをどう見ているか、自分のことを否定しているかもしれないという大きな不安があります。
このような心情の人がどのように安心して人とつながっていけるか。それがひきこもり脱出の重要な鍵になります。
2021年1月20日水曜日
ひきこもり連載(1) 社会問題化
思い込みから自由になる
今回、自分の心にあるつっかかりを思い切って出してみまして、今まで自分自身ではどうしょうもない解決出来ないと思っていた問題の解決策、答えは実は自分に中にあるということ、自分が相手に対して恐怖感の疑念を抱きすぎている事が、相手にたとえその感情が相手にあったとしてもそれは、自分自身の相手に対する思い込みでさらに恐怖感を倍増している事がわかり、自分自信の恐怖感を出来るだけ無くすことで相手のその感情を抑えられる実感が湧き、問題解決の後ろ押しの勇気と自信が湧いてきました。
そして翌日、さらにその翌日とその気がついた事を念頭に問題にとり組んだ結果、今まで行き詰まっていた問題に解決の糸口がつかめました。
わかってはいたものの、診療所で心の壁を取っ払って共感できる先生や皆さんとの交流の有意義さと感謝を感じました。
2021年1月6日水曜日
家族療法教室:どのように森全体を見渡すか?
12月26日(土)「事例から学ぶ家族療法セミナー」
今回、初めて家族療法教室に参加しました。昨年度よく参加させていただいていた「子どもと家族の研修会」と異なり、講義形式の進行で内容も専門性が高く、家族療法や心理療法の基礎知識がなければ理解するのは難しいと思いました。しかし、セラピーの中で起こった現象を理論と結びつけて説明してもらえたので、臨床現場に身を置いている者には示唆に富むお話でした。終わった後、「聴いてよかった」と胸が高鳴りました。
田村先生は海外で仕事をすることも多く、西洋の家族システムについて詳しいこともあり、日本をはじめアジア圏の特異性をわかりやすく解説してくださいました。日本にいると、自分たちの家族システムが身近すぎて見えないことがたくさんありますが、西洋との比較により、いかに日本が大家族でシステムを作り上げているのか、嫁が嫁ぐとどんなシステムが発動するのか、ハッとするようなことがいくつもありました。
また、問題を表出している個人ではなく、家族全員に広く目を配り、抱えながら丁寧に個人面接や夫婦同席面接を織り交ぜてケースを動かしていく様子から、すぐに効果は出なくても粘り強く関わることの大切さやセラピストの包容力の重要性を見せてもらったように思っています。
セラピストを信頼し、よくなりたいと頑張る家族の力と、それを受け止め家族の健康的な力を引き出すセラピストの相互作用があってIPの症状が改善していったことを考えると、個人に関わるだけでは限界があり、全体を見る力を養っていくことが大切だと思いました。
2021年1月3日日曜日
昨年の振り返りと、今年の抱負
- 2年かけて移住先の選定・リノベーションを済ませ、6月より高山村に住み始めました。大都市東京でのライフスタイルと、高山村での暮らしは大きく異なります。還暦を過ぎてから、新たな場所で、新たな人と、新たな生活を始めました。
- 新型コロナウィルス感染拡大により、世界中の人々は新たな生活様式を求められました。私にとってコロナ禍による生活の変化は頻回の海外出張がなくなったくらいで、むしろ移住による生活様式の変化の方が大きいです。
- Social Distance: 高山村の人口密度は東京区部の約250分の1。
- 夜の街の自粛:高山村に人が集まる「街」はありません。
- 渋川市内の病院で勤務医をやりながら、古民家での精神科自由診療を始めました。個人療法や家族療法、支援者へのスーパーヴィジョン、各種グループ活動などを始めました。これらは広尾のクリニックでやっていた活動の延長線上にあります。
- 臨床活動
- セラピー(個人療法・家族療法)、個人及びグループスーパーヴィジョン、合宿形式のワークショップ・スーパーヴィジョンなどを拡充していきます。「家族療法講座」は10月より3月までの半期を計画しましたが、4月以降もより体系的に行います。
- ウェブサイト、パンフレットの作成。SNSやブログによる情報発信
- ワークショップの開催(ピザ窯料理、薪割り、ウッドデッキ制作、鶏小屋の解体など)
- 執筆活動
- Australian and New Zealand Journal of Family Therapyのアジア特集号の編集(Guest Editorなのですが筆が遅れています)
- 「古民家療法」の概念と臨床をまとめ、本の執筆・出版
- 学会・講演
- 日本家族療法学会の活動
- コロナが落ち着いたら、海外との交流も再開するでしょう。
- Asian Academy of Family Therapy
- Japan-Korea-Taiwan Case Conference
- 中国における講演とスーパーヴィジョン
- 古民家リノベーション
- 広い古民家の1/4のリノベーションは完了したので、残り3/4のリノベーションは来年以降まで持ち越して、、、
- 家の周りの環境整備
- 南側)薪小屋・ウッドデッキの作成、植栽(園芸、菜園、樹木など)、鶏小屋の解体と駐車場の整備
- 北側)竹林と小川の整備
- 身体のメンテナンス(健康の維持)
- 減量と生活習慣病の予防
- 健康を維持する食生活
- 身体のフィットネス:冬のbackcountry ski、夏のサイクリングと登山
- 家族生活の充実
- 新たなパートナーとのstable and secure attachmentの形成
- 子ども達を含めたreconstituted family systemの安定化(自分の家族が実験台です)