2018年8月19日日曜日

グループ・スーパーヴィジョン「夏合宿」

標高約1000m、真夏でも朝晩は肌寒い、爽やかな草津の高原で、二泊三日の合宿を行ってきました。

参加者は4名。医療、心理、福祉、教育など職種は異なっても、心の支援を行っているセラピスト(支援者)たちです。
普段、広尾のオフィスで行っているスーパーヴィジョンは、個人SVが1時間、グループSVが2時間ですが、「合宿」では3日間かけて計12時間の濃密なトレーニングを行います。毎夏行っており、今回が4回目(かな?)になります。
普段のSVでは、主にケース(クライエント)について語ります。
合宿では、より深いレベルのSVとなります。ケースというよりも、ケースを受け止める支援者自身の内面を語ります。

人は、否定的な体験と肯定的な体験を持っています。
否定的な体験とは、他者から否定される体験です。その結果、不安、恐れ、悲しみ、自信のなさ、自己否定、怒りなど、様々な否定的感情を持ちます。
肯定的な体験とは、その反対に、他者から肯定される体験です。褒められる、愛される、承認される、理解されるなどです。その結果、喜び、幸せ感、自己肯定、自尊心などの肯定的な感情を持ちます。

誰でも、肯定的・否定的、両者の体験を持ちます。
健康に生きていくためには肯定的体験が大切です。否定的体験・感情は知力・腕力・地位・経済力などの鎧を作って、その下に隠します。自分自身でも見えないように否認します。

普通の人はそれで良いのだと思います。人生80年(最近は100年だそうですが)、それでなんとか健康で幸せな人生を終えることができます。
しかし、否定・肯定体験のバランスが崩れ、否定的な体験・感情が多すぎると、健康に生きることが困難になり、様々な問題を生じます。

その場合、なんとか肯定的な体験を増やさなければなりません。
心の支援者は、否定的体験を肯定的体験に変換します。
そんなことできるのでしょうか?
過去の体験そのものを変えることはできません。
しかし、体験に与えられた意味づけを変換することは可能です。

否定的な体験が十分に表出され、他者により受け止められ、承認されると、否定的体験を生き抜いた自己が肯定されます。
その他者の役割を果たすのが心の支援者です。

しかし、その作業はとても困難です。
心理学や精神医学を学べば、クライエントの心理や病理を理性的に(理屈で)理解することはできます。病名・障害名のラベルをつけ、そこから導き出される治療法やお薬を与えることができます。
しかし、本当に必要なことは、クライエントを感性的に共感することです。
相手を受容し、共感すること。
これは簡単なようで、とても困難です。
黙ってひたすら聴いて「ふんふん」と相槌を打てば、一見共感しているように見えますが、そんなものではありません。
そのやり方を理屈(勉強)で学ぶことが不可能です。
理性は学ぶことで会得できますが、
感性は体験することでしか会得できません。

夏合宿では、その体験が実現します。
否定的体験を語れば、辛く苦しい感情が表象に上がります。普段隠している感情が表に出てきて、不安や恐れ、悲しみ怒りなどに圧倒され、自分が崩壊する不安を感じます。その恐怖を体験し、それが他者によってそのまま受け止められ、共感された時の喜びや感動を味わいます。その感覚は言葉では表せません。
  • 自分が自分のままでいられる感覚
  • 今まで堅く守っていた部分の力が抜けて、楽になる、リラックスできる
  • 背伸びしなくても良い自分を受け入れられる
  • 自信を回復した
このような表現で合宿の体験は表されます。
しかし、体験していない人にとっては、何を言っているのか理解できないでしょう。

このような体験を経ると、支援者は自分の否定的体験・感情をセラピーに利用できるようになります。今まで隠されていたブロックが解除され、クライエントの体験を、自分の体験を参照できるようになります。
言葉では説明できない感性が相手に伝わり、受け止められ共感される安心感を、クライエントに自然に伝えることができるようになります。

今回も、参加者たちは、そのような体験を持ち帰りました。