2019年12月31日火曜日

群馬移住6)自由診療から保険診療に戻って

広尾では自由診療でしたから、保険診療は10年ぶり、病院勤務や当直は30年ぶりです。まさかこの歳になって保険診療の医師に戻るとは思っていませんでした。
自由診療に慣れた視点から、保険診療の特徴について考えます。

医学モデル
Bio-psycho-socialな視点では、保険診療は当然のことながらBio(医学モデル)が中心で、心理および社会的な視点は医学モデルを補助する役割を果たしています。
多職種からなる医療チームを医師が統括しています。
ソーシャルワーカーが他機関からの紹介を受け付け、サイコソーシャルな背景をインテークします。
心理士が検査などで心理アセスメントを行います。
それらの情報を手がかりにして医師が医学的病名を診断します。
診断名に基づいて、治療計画が立てられます。
と言っても薬物療法が中心で、本人や家族への心理社会的治療は補足的にしか行われていません。
医学モデルによる治療(支援)は診断と処方がメインで、医師によって独占されています。その結果、医師が医療チーム全体の責任とリーダーシップをもつことになります。

薬への依存
昨年の1月にいずみ医院で外来診療を始めた頃にはまだ患者の数も少なく、生活や病歴を詳しく伺い、心理社会的治療に時間をかけることもできました。
しかし、患者の数が増えるにつれ、ひとりの方に割ける時間が限られ、じっくり話を聴けなくなりました。すると、処方箋をきることしかできなくなります。治療手段として薬物に頼らざるを得なくなります。
何年も受診し分厚くなっているカルテを見ると、何年も長期間に渡り同じ薬を処方されています。症状も安定しているので減薬を提案しても、「同じ薬をお願いします」と言われてしまいます。説得して減薬すると、次の受診時には「調子が悪くなりました」と訴え、元の処方に戻さざるを得ません。
患者側も、医者側も、薬物に依存せざるを得ない状況にあります。

当事者として、支援者の良心としても、丁寧な社会心理的治療を目指したいと願います。
しかし、そのためには時間をかけた支援者のトレーニングと、時間をかけた丁寧な支援が必要になります。その体制が十分に整わないと、経済効率に長けている薬物治療が優先されてしまいます。そのバックには製薬会社と日本医師会のロビイングによる現行の医療保険制度があります。

そのような制約の中で、細々と行う社会心理的治療が見えてきました。
保険医療のメリットは、比較的安価に医療を受け続けることです。
少量の薬物をトークンとして用い(私は薬理的効果はあまり信じていません)、一回の診療は短時間でも継続的に長期間関わることで社会心理的側面をある程度掘り下げることもできます。そのためには安定して持続可能な治療関係の継続が必要です。

2019年の振り返り

大晦日と元旦は群馬の病院に当直しています。
お正月の病院当直は20代の研修医時代以来の40年ぶりです。
30日には子ども達にまる一日付き合い、
正月2日からは家族との予定が入っています。
その間、唯一の一人になれる二日間です。
日勤は病棟や外来から呼ばれ、それなりに忙しいのですが、夕方になれば落ち着いています。
この時間を利用して、私自身の2019年を振り返りたいと思います。

東京から群馬へ

この一年は、移住の準備プロセスの1年。躍動の年でした。

広尾から大森へ
8月にオフィスを移転し、9月から大森での相談を開始しました。
西麻布の高い家賃から解放され、自宅の1階部分を改装した小さな相談室です。
私にとってのプライベートな場所にクライエントを招き入れることに当初は慣れずにいましたが、クライエントさん達の反応はそれほど気にしていないようです。気にしているのは私だけなのかということに気づいてからは、気にしなくなりました。
場所が変わっても、セラピー自体は全く変わりません。
むしろ、家賃がなくなった分だけ、相談料を値下げすることができたのは良かったです。

渋川での保険診療
1月から渋川市内の精神病院と外来クリニックで週2回の勤務を始めました。
保険医は本来の目的ではありません。群馬でも自由診療で、広尾で行ってきた私の思い描く支援活動を継続するつもりです。当初は、それを実現するための手段(地域の医療関係者とのネットワーク作りと当座の食いぶち稼ぎ)くらいに考えていました。
しかし、長谷川憲一院長が率いるチームに接してみて、考えを改めつつあります。
詳しくは別のブログ記事に書きました。

高山村の古民家
前橋・沼田・中之条・水上など多くの物件を約一年半かけて見て回った末に、移住先を決めました。選択肢は他の地域の方がたくさんあるのですが、初めから高山村の場所が気に入りました。なかなか適当な物件が見つからなかったのですが、時間をかけて、地元の人たちにもたくさん助けてもらって、決めることができました。
秋以降はトントン拍子に前に進むことにしました。
古民家片づけ隊に、たくさんの人たちがボランティアで集まってくれたのには感激しました。人の力はとても大きいと思います。

移住先でのネットワーキング
高山村でのメンタル研修会を4月から月一回のペースで始めました。
場所も、蛙トープ、いぶき会館、村役場の会議室と転々としました。支援する側・される側が一緒に集まり自由に話し合う場に、予想以上に多くの方々が集まってくれました。それは私自身がエンパワーされた体験です。
そこで知り合った人たちから研修会などにも呼んでいただき、ネットワークの輪をさらに広げることができました。
新しい場所に私は馴染んでいけるのだろうか?
そんな不安を当初は抱えていましたが、なんとかやっていけそうな将来への見通しが見えてきました。

海外での活動
今年は上海を3回訪れ、ワークショップを行ってきました。
急速に発展する中国社会は心理支援のニーズも急速に高まっていますが、指導やトレーニングの機会が極めて限られています。不登校・ひきこもりも日本・韓国・台湾などと同様に増えてきています。
7月にシンガポールで、8月にはマレーシアでアジアのセラピスト達へのスーパーヴィジョンやケース検討会も行いました。
これらの経験から、不登校・ひきこもりとアジア文化の関連性について良く見えてきました。日本だけではわからなかったことも、アジア諸国へ経験の枠組みを広げることで見えてきました。
その成果を、
  • 6月にアメリカで(American Family Therapy Academy)
  • 7月にSingaporeで(Asian Academy of Family Therapy と American Association of Marriage and Family Therapy)
  • 10月にタイのチェンマイ( ASCAPAP: Asian Society for Child and Adolescent Psychiatry and Allied Professions)とオーストラリアのMelbourne (Australian Association of Family Therapy) で発表しました。
思えば、随分たくさんの機会に恵まれました。

"Glocal"な臨床
高山村でのlocalな視点と活動
国際的なglobalな視点と活動
結果的には、その両者を同時に進めることになりました。
これは、もしかしたら私自身の追い求めてきた姿なのかもしれません。

2019年12月16日月曜日

娘の卒業式@メルボルン

現在、娘の卒業式に参加するためにメルボルンに来ています。
ここ数年、海外出張は年に10回程度こなしていますが、仕事をしない海外渡航は6-7年ぶりです。

日本では、大学に入学するのが大ごとですが、卒業するのはそれほど難しくありません。
欧米では、大学に入るのはそれほど難しくないけど、卒業するのが大ごとです。
日本の大学では入学式が盛大で、卒業式はそれほどでもありません。
オーストラリアの大学では、入学式は大したことありませんが、卒業式が盛大です。
日本の大学いる息子二人の入学式には親として出席しましたが、卒業式には出ていません。(次男の卒業は来年ですが)
オーストラリアにいる娘の入学式には出ませんでしたが、卒業式には出席することにしました。

今回は、娘の祖母も一緒です。子ども達にとって唯一の祖父母になった義母は85歳。つい数ヶ月前まで現役で働いていた元気なおばあちゃんです。生命保険の外交員として30年以上地域で活躍してきました。40年前には海外駐在員夫人の先駆けとしてサンフランシスコに5年間滞在し、海外生活の経験があるとはいえ、さすがに体力の低下は否めません。今回はビジネスクラスでゆったり旅することになりました。

私も、ビジネスクラスは若い頃、間違って乗っただけで(エコノミーが満員だからビジネスに変えてくださいっていうオファーが昔ありました)、ほぼ初めてです。会社や国家でお偉いさんになった友人たちは、当然のごとくビジネスクラスを利用していますが、大学の教員なんて慎ましいものですよ。

いやぁ、楽チンですねぇ!
座席は広くてゆったり。寝るときはフルフラットで横になれます。
機内食も美味しくて、CAさんはワインを何杯も注いでくれます。おかげで酔っ払ってしまいました。
長距離便のエコノミーは症候群になるほど苦行ですが、ビジネスは極楽です。あえて言えばビジネスクラス症候群は酒の飲み過ぎでしょうか。
窮屈なエコノミーに座っていると、ビジネス客は偉い人かお金持ちに見えます。羨ましいなぁ、、、
しかし、ビジネスに座ってみると、自分が偉い人かVIPかお金持ちになった気分になるわけではありません。もしそうなら、それは薄っぺらな自尊心なんでしょう。
多少、楽チンなだけで、目的地に早く着くわけでもないし、落ちるときは一緒ですから。

伴侶を亡くし20年以上一人暮らしを続けているおばあちゃんにとって、孫娘が海外に呼んでくれるのは何よりも楽しみな旅です。
まあ父親にとっても同様ですが。

今回の旅はおばあちゃんペースです。
目的は孫の卒業式参列のみ。
体力的に、あちこち観光で見て回るわけでもありません。
せいぜいクリスマスで賑わうホテル近辺のお店をwindow shoppingするだけで、あとはホテルでのんびり。この生活を1週間続けます。
現実逃避。国内ではこういう生活はできません。やることが迫ってきますから。
仕事の旅行でも、やる事は詰まっているし、今回のような旅行はなかなか良いものです。

もっとも、溜まっている原稿はたくさん持ってきています。
のんびりした時間の中では、原稿もはかどるはずなんですが、なかなかうまくは行きません。

(まだ書いている途中です。)

2019年12月15日日曜日

高山村でのグループSV

12月8日(日)の午後3ー5時に、高山村役場の会議室でグループ・スーパーヴィジョンを行いました。今回の参加者は6名、病院の心理士やソーシャルワーカー、学校の教師、養護教諭、スクール・カウンセラー、スクール・ソーシャルワーカさんたちが参加しました。
ひとりの方が事例を提示して、それに着いて2時間、ゆっくり参加者の皆さんと語り合います。提示してくれた方の振り返りをご紹介します。
  • 後半のみの参加でしたが、皆さんに温かく話を聞いていただき、その体験自体に癒し効果があるように感じました。またよろしくお願いします。
前半(午後1時からのメンタル研修会)から引き続き参加される方が多いのですが、この方は後半のみのご参加でした。
心の専門職たちは、このように普段行なっていることを改めて語る時間も、相手もなかなか得られません。それは都会でも地方でも同様です。改めてこのような場に参加すること自体に大きな意味があると思います。

次回は、1月13日に同じ場所(高山村の会議室)で行います。
午後1時からの研修会から参加していただいても、3時からのグループSVのみのご参加でもOKです。
次回は、スクール・カウンセラーの方に事例を出していただきます。

リラックスして話し合い解決策が見えてくる

月例で行なっている「子どものメンタル研修会」の様子を、参加者のみなさんに書いてもらった振り返りを紹介しながらお伝えします。
12月8日は高山村役場の二階の会議室で行いました。
(次回は2020年1月13日(月・祝)午後1時から同じ場所で行います)

  • 「不登校→再登校できたケース」というテーマで田村先生はじめ参加者の方々の経験・実践の生のお話を聴かせていただくことができ、とても良かったです。
  • 少人数ということもあり、皆さんのお話を聞くことができて良かったです。その空気に安心して、前回参加した時よりリラックスして発言することができました。参加者の方々とフランクに会話ができて良かったです。自分のやってきたことを改めて皆さんの前で発言することで振り返りができているような気がします。
  • ケース理解が深まり、とても面白かったです。議論の時間があると、それぞれ触発されることが違うので良いなと思いました。自由な今の雰囲気が良いと思います。

研修会を始めた春の頃は30人以上来てくれましたが、今回は15名でした。これくらいの人数だと、あまり緊張せずに皆が自由に発言できます。この雰囲気は大切にしたいと思います。というか、この雰囲気それ自体に癒される効果があります。皆さんが交流している様子からそう思いました。
  • 参加者の皆さんがそれぞれの立場で悩みや課題を抱えているんだなと感じました。答えは出ないけど、そういうことを参加者みなで「共有・共感」する時間を大切にしたいと思いました。女性の参加者が多く、女性視線の意見・思考を交わすうちに強くなったと感じました。
  • 皆さんから色々な立場の方からお話を聞くことができて、大変参考になりました。今日のお話で、お父さんの協力・役割が大切なんだと思いました。
  • 家族関係が大切なんだと思いました。でも自分の夫に対する不信感(?)はなかなかなくならないだろうと思いました。
今回は男性の参加は私を含めて二人だけでしたが、ガンバって男性の視点もお話ししてくれました。男性・女性、お互いに相手の視点は理解しにくいものです。そのことも共有できました。
  • 先生のお話にあった「システムを変える」「支援者が家族の各々に共感すること」という言葉が印象に残りました。
  • 親や夫婦関係が変わると子どもも変わるということを、事例や皆さんの話を聞いて実感しました。
  • 不登校は子どもだけの課題ではなく、家族関係など様々な要因が重なっていることがよく理解できました。子どもだけを見るのではなく、全体を俯瞰する目が必要であり、また安心できる関係・環境も大切だと思いました。
  • なるべく時間を見つけ、祖父母と協力しながら子どもに対応していけたらと思います。学校の先生におじいちゃんへのアプローチをお願いしてみようかなと思いました。
私は「木を見るか、森を見るか!?」という比喩をよく使います。一本の木(子ども)に注目しても、なぜこうなっているのかがわかりません。その木を取り巻く森全体(家族や学校・社会などの環境)を俯瞰すると、システム全体の中での立ち位置が見えてきます。そのことをアタマでは理解できるのですが、普段、子どもの至近距離にいる家族や教師にとって、なかなか見えにくい視点です。このような場で自分の体験を言語化することで、自然に客観視できます。
  • 家族を巻き込んでの皆さんの体験を伺い、現在のケースにやってみようかなと感じることができました。色々と試みてみようともいます。
  • 愛着と不安はセットであり、不安を拭うためには安心と信頼を相手にわかる形で伝えるしかないのだと思いました。
  • ソーシャルワーカーさんから見た学校への視点がわかりました。学校も頑張らなきゃと思いました(立場は違いますが)。
  • 家族を支援するとき、中立的に関わること、安心できる場を作り関係性が変わることで問題が解決していくと感じました。
  • 不登校やひきこもりの初期の不安・怖さがある時に無理強いは良くない。しかし、背中を押すことも必要でタイミングがあること、ただそのタイミングの見極めは難しいなと感じました。
子どもへの支援は専門な知識や技術がいるわけではありません。色々な事例を体験する中で、なんとなく目からウロコが落ちるように、新たな関わり方に気づいていきます。

今後の研修会に対するご希望も伺いました。
  • 男性・女性の思考の違いについて学びたいです。
  • 引き続き、不登校関係のお話を聞けるとありがたいです。
  • 今後もできる限り皆さんが発言できると良いなと思いました。参加者が多いと難しいかもしれませんが。
ご希望を受けて、次回のテーマは「男性・女性の思考の違い」にしましょう。それまでうまく協力できなかったお母さんとお父さんが協力して子どもの問題を解決していった事例をご紹介します。
多分、冬の間は参加者はそれほど多くないのではと想像します。引き続き、少人数の中で皆さんが安心して発言できる雰囲気を作っていきたいと思います。
  • 両親・子どもなどの合同面接の進め方を、ロールプレイで練習してみたいです。
というご希望もいただきました。これは、後半のグループSVでやりましょう。

2019年12月5日木曜日

教師の思い・子どもの気持ち・親の心配

先日、小学校の先生方に講演をしてきました。
10年以上前に親しかった同僚の紹介で引き受けたのですが、面白かったのは打ち合わせです。普通、事前の打ち合わせはメールや電話で済ませるか、丁寧な場合は訪ねてきてくれてお会いして打ち合わせます。今回は、いきなり飲み会の打ち合わせでした。こういうのは初めてです。
学校の先生は飲むのが好きな人が多いのですが、関連する先生方8人くらいが集まり、お酒を飲みながら講演について話し合いました。実例に基づいた話の方が興味を引くしわかりやすいので、飲み会に参加した若手の教師ふたりにお話ししてもらい、それを受けて私が話すことにしました。
講演のタイトルがまだ決まっていないということで、皆さんであーでもない、こーでもないと知恵を絞り、まとまったのが、
「教師の思い・子どもの気持ち・親の心配」
~学校現場の実例を精神科医がひもとく~
というタイトルです。よく考えましたね。
後日、講演の要旨をまとめてくれたので、ご紹介します。

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本講演会は、講師の田村先生の提案により、小学校の先生お二人にも前に出てきていただき対談のかたちで行われました。

対話と連携
日頃から大切にしていることは、対話と連携。対話することによって問題が発見され、解決していく。
人と人との関係性に焦点を当てることが大切。子ども、保護者、教師などの個人レベルの能力や資質により精神的な問題が生じるという視点がある。それと共に人と人との関係性の中で問題が生まれるという視点もある。この場合には、関係性に焦点を当てて改善することにより、問題が解決していく。

安心感から信頼感がうまれ、行動が変わる
相談に来る子ども達の中には、自分自身の状況や気持ちをうまく表現できない子も多い。それでも小学校ではかろうじて適応していることも多い。しかし、これから先つまずくことが予想される。ストレスを抱えていても言語化できず、行動化(不登校、暴力、いじめなどの問題行動)、身体化(お腹が痛い、じんましんがでてくるなど、体に何らかの症状が出る)などで、自分の状況を伝えようとしてくる。周囲はそのサインに、気づいてあげることが必要。
多くの場合、安心できない家庭環境があると子どもは人との関係性を作ることに不安をもつ。友達と関係性を作っていくときに怖さが全面にでて、その反動として攻撃性がでてしまうときもある。支援する時には、家族・家庭の中での安心感を作っていくようにしている。家庭環境から安心感や信頼感が生まれてくると、学校での子どもの行動が変わってくる。

必要なのは承認されたという原体験
不登校、ひきこもりは、愛着の問題であることが多い。子どもはクラスの中で友達や先生と関わりながら学校の中で自分の居場所を作っていくが、不登校、ひきこもりの子どもは、その体験が少ない。学校に行くのが嫌になってしまう、教室の中に溶け込めない、自分の居場所として認知できない。子どもたちにとって、先生は味方だということが分かると、先生との愛着関係が生まれる。すると学校が安心できる居場所になり、人との関係を築きやすくなる。信頼できる人に承認されたという体験が子どもにとって大切。

また、小さい頃は自分の思い通りになる世界「ピーターパンの世界」を誰でももっている。小さい頃、自分の欲求が満たされたり、自分を全面的に愛して受け止めてくれる人がいることで、子どもの自己肯定感が育っていく。だがそれがうまく育まれていないと、大きくなるにつれて自分の思った通りにいかないと挫折し、周囲を拒絶してしまう。自分が信頼している人から承認された体験を家庭や学校の中で積み重ねていくことが大切である。

まずは保護者自身の「安心感」から
子どもが親離れできない背景には、親が子離れできていない場合がある。親が、親と子どもは別の人生だということを理解する必要がある。だが、親自身が孤立感、孤独感をもって生活をしていると、無意識のうちに子どもを取り込むことで、親自身の心の安定性を得ようとすることがある。本人に自覚がないことが多いが、客観的にみると分かる。親自身が、不安、ストレス、困難さをもっている場合、子どもが親から自立するのは困難。親の心の元気さを作っていってあげることが必要だが、学校の先生は教育のプロであるがカウンセリングのプロではない。学校だけで家族の問題を解決することは難しい場合も多い。家族の話を受け止めつつ、カウンセラー、養護教諭などや外部機関につなぐことが必要である。

支援のバトン
ひきこもりや発達障害などの問題を家族だけで抱え込むケースが多い。もっと社会の問題としてとらえるべき。そのために学校ができることは、支援のバトンをつなげることだ。
本当に困っていて不安な人は自信を失い、外部に助けを求めることができない状態になる。困っている親がまず口を開く相手は、学校の先生である場合が多い。その内容が子どものことではなく家庭の問題、夫婦の問題であったとしても、一旦話を聞いてあげることは、親にとっては肯定的な体験になる。子どもの先生が、親である自分の悩みまで聞いてくれたということが、気持ちを前向きにする。
第一支援者となる学校の先生が親の話を聞いて受け止めてあげることで肯定的な気持ち、前向きな気持ちになりヘルプを出せるようになることもある。親の閉ざされていた心が開かれて、外部との信頼関係が生まれる。すると他の機関とも繋がりやすくなる。成功体験をステップにして、信頼関係のバトン、支援のバトンを繋げていくことが大切である。

2019年12月4日水曜日

上海旅行記

3泊4日の上海から帰国しました。

今年の上海はこれで3回目です。2年前に武漢の学会に招かれ、呉さんに出会ってから、頻繁に来るようになりました。

呉さんは私の中国のマネージャーです。学会の主催者から紹介を受け、中国の不登校は多くて、カウンセラーのトレーニングは不十分だ、ぜひやってもらいたいという事で引き受けました。呉さんは日本での留学・就労経験があるので日本語は堪能です。大学勤務時代に私の秘書は使ったことあるけど、海外のマネージャーが付いた経験は初めてです。

今までの上海ではカウンセラー(セラピスト)を対象にした不登校や家族療法の研修(ワークショップ)でしたが、今回は初めて家族(親)を対象にした二日間のワークショップでした。
テーマは「不登校とゲーム障害」。
思春期の親(ひとりまたは両親)12組と同じくらいの人数のカウンセラー、計約30名の参加です。支援者と当事者をミックスした研修は東京での「家族療法コンサルテーション」や群馬高山村での研修会など、最近積極的にやっていますが、海外では初めてでした。果たして上手くいくか不安でしたが(海外では予期せぬ事が度々起こります)、結果的には上手くいきました。

いつもの専門家向けの研修ではPPT (powerpoint)を使った講義形式から始めるのですが、今回はPPTもレクチャーもなしで、初めから実際のケースを扱いました。
まず、皆が自己紹介をして語り合い、十分な安全な場を作ります。
カウンセラー(経験はピンからキリまで差があるのですが)と親(ひとり又は二人)がペアを組み、1時間ほどかけて物語を作ります。
1.(問題を抱えた)子どもの物語
2.それを取り巻く家族の物語
3.カウンセラーのアセスメント
4. Consultation Questions(コンサルテーションで話題にしたいテーマ)
を語り合います。
その後、一組30-60分ほどかけて、全体の前で私がコンサルテーションを行います。

私が英語か日本語を使い、中国語との通訳を介します。Crosscultural teaching and supervisionは通訳を介するやりにくさはありますが、国内では経験できない面白さがあります。ただし、cultural sensitivityと経験がないとかなり難しいと思いますが。

日本と中国ではコミュニケーションスタイルが違います。
中国の人はoutspokenというか、研修でもセラピーでも自分をどんどん表現して迫ってきます。こちらから促さなくてもたくさん質問してきます。研修でロールプレイや事例提示の希望者を募ると、日本では内心やりたいと思っている人でも「遠慮」して誰も手を上げません。中国では、多くの人々が手をあげるどころか、こちらか指名する前に勝手に前の席に座ってしまいます。私に文句を言ったり、ロールプレイで参加者の一人が発言すると、見ている観客との間で口論になり大声で言い合ったりします。
声がデカく迫ってくるので、日本人の感覚だと攻撃的で怒ってるように見え、遠慮を知らない(空気を読めない)無礼な振る舞いと認識されます。
しかし、それが彼らのコミュニケーションスタイルなのです。それがわかると、別に嫌な感じはしないし、むしろ、内面の葛藤の表出を促すセラピーの場においては、日本人よりもストレートでわかりやすく、治療効果も高いように思います。
その視点から見ると、日本のコミュニケーションは隠喩的すぎて、何を言いたいのかわからない、言語化や表情によってはっきり自分の気持ちを出そうとしません。「遠慮」や「空気を読む」は日本独特のコミュニケーションなのです。

今回のワークショップ終了時、普段は事務連絡だけの呉さんが、急に自分を語り始めました。彼が若い頃、親に反抗して色々あったんだけど、自分でなんとか困難も切り抜けたし、親はそんなに関係なかったし。
ワークショップで、あまりに子どもへの心配を語る親たちの話を受けて、思わず語りだしたのでしょう。彼は心理学の専門家ではありません。

今回のワークショップは思春期の子どもの問題に親がどう関わったら良いかというテーマでしたが、蓋を開けてみると、子どもに対する親の不安がクローズアップされました。このあたりは、日本の家族と全く同様です。日本の家族は親の感情(不安)を隠そうとしますが、中国の親たちはストレートに出してきます。
子どもの視点からすれば、思春期の困難さは自分でなんとかするものだし、親がどうこうできるものではありません。それが自立心の芽生えでしょう。しかし、親は限りない不安の眼差しを向け、思春期の子どもたちが自分で悩み葛藤する機会を奪ってしまいます。親の愛情が裏目に出て、子どもの心の成長を抑制します。

呉さんの語りを聞きながら、思春期の子どもの親が、親自身の思春期を回顧して語る機会を設けるのも面白いなと感じました。
子ども側の心理に立つ事ができます。
・自分自身の若い頃の最も困難だったこと、辛かったことは?
・それをどう乗り越えたのか?
・その時、親はどうしていたのか?親の援助を借りたのか?
その中から、親の肯定的な愛(子どもへの信頼と安心)を見出すことができれば、今の自分も親として子どもに肯定的な愛を届けられるかもしれません。
しかし、当初は親の否定的な愛(心配や不安の眼差し)を見出してしまうかもしれません。それをよく掘り下げ肯定的な愛までたどり着けるか。それがファシリテーターの技量になるでしょう。

<余談>

中国のインターネットはGoogle, Facebook, LINE, Dropbox, Amazon, Youtubeに繋がらない。
WeChatは普通にログインできる。じゃらんはログインして予約照会もできた。
日本のウェブサイトの多くは、トップページは閲覧できるのだが、ログインはできない。
Booking.comはアカウントにg-mailを使っているのでログインできない。
日本の銀行のトップページには繋がったけど、ネットバンキングにログインできない。
Yahooはログインできるけど、検索はできない。

メールもLINEも使えないし、検索も、Googleカレンダーも、Dropboxのファイルにもアクセスできないし、Amazonで買い物もできない。およそ普段PCでやっている仕事ができなくなる。
普段のPC仕事がいかにinternetに依存しているか思い知らされます。
こんな規制がかかっているのは、私が訪ねたことのある国の中では中国だけです。
普段は国内から、VPNが付いているWi-Fiルータを用意するのですが、今回は週末をはさんだ4日間の短い旅なので敢えて用意しませんでした。不在中に重要なメールやLINEが来ているのではないかと気がかりでしたが、帰国して開けてみると、ジャンクメールはたくさん来てますが、緊急の連絡がありません。
普段、いかにネットに依存しているかということがよくわかります。
ちなみに、今回のワークショップは子どものネット依存についてです。

上海は超近代と旧来の伝統が混在している街です。
東京をはるかに凌ぐ超近代的なビルや広場や、とても大きなショッピングモールが市の中心部にたくさんあります。
そこから一本裏の道に入ると、昔ながらのちょっときたなく見える集合住宅や小規模商店街などが混在しています。
伝統から近代へ。
急速に進化している中国社会を象徴しています。