2013年11月15日金曜日

そして父になる

カンヌ映画祭の話題作「そして父になる」を観た。
ネタバレしないように気をつけながら紹介すると、、、

病院で子どもを取り違えられた二組の夫婦の葛藤の物語た。
それなら、「父になる」と「母になる」の両方があってもよさそうだけど、そういう意味ではない。
4人の親のうち3人は既に「親」になっている。
ひとりだけ、「父親」になっていなかった男性が、家族の葛藤を通して「親」になっていく姿を描いている。

そして、どうやって父になったのかを要因分析すると、

1)家族と向き合わねばならない試練が与えられた。
 もしこの事件がなければ、彼は敢えて「父親」にならなくても家族はどうにかやってこれただろう。葛藤があったからこそ真剣に向き合う必然性が生まれた。
危機crisis=険danger+会chance
家族の危機は、家族が崩壊する危険性を含むとともに、家族の力を発揮するよい機会(チャンス)でもある。どうしたらよいかわからない、しかしどうにかしなければならないというギリギリの状況の中で彼は苦悩し、試行錯誤して家族と向き合った。

2)価値観・人生観の転換
 オトコとして、社会人としての自分を作りあげ、成功を支えるために彼自身が育んできた価値観を転換せざるを得なくなった。積み上げてきた自分をいったん崩すことは大きな勇気が必要だ。初めて経験する大きな挫折体験が、彼を人間として成長させた。

3)夫婦の対話をやめなかった。
 夫婦を長くやっているとだんだんオリが溜まってくる。挫折がなければオリが溜まっていてもなんとかなる。しかし、試練を乗り越えるためには夫婦が協力しなければならない。高いレベルの協力体制を組むためには、溜まったオリを整理しなくてはならなくなった。お互いに我慢していた不満が一気に高まり爆発する。今までは敢えて語らなかった本音をお互いに思い切って伝え合う。それはお互いにとってかなりきつい。そこを何とか踏みとどまり葛藤を乗り越えることができると、夫婦の新たな問題解決能力が生まれる。

4)自分の親を訪ねる。
 どの親もマニュアルを頼りに子育ては出来ない。親から与えられた体験が身体に浸みつき、無意識のうちに自動的に子どもに対応している。子どもにどう向き合ったらよいのかわからなくなった時は、あえて自分の過去を再訪することで自分の癖が見えてくる。

5)子どもから愛をもらった。
 彼は親としてどう関わったらよいのか、向き合ったらよいのか自信が持てなかった。ふとしたきっかけにより子どもからそれで良いのだよと承認を受け、父親としての自信を獲得する。夫婦と同じように、親子でも相互に愛を伝え合う。親が子どもに愛を伝え、子どもが親に愛を伝える。その相互作用の中で親子関係が再構築された。

日本映画にありがちなB級作品ではなく、危機を乗り越えようとする家族の心理がうまく描かれた見ごたえのある作品だ。

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