2014年2月15日土曜日

薬が効くのか、カウンセリングが効くのか?

Q 精神科医に相談したら、薬の服用を勧められました。抗精神薬のようですが、ひきこもりに薬物療法は効くのでしょうか。

A 効く場合もありますが、私が経験する大多数の例で、薬は効きません。
 効くか効かないかの違いは、ひきこもっている原因が何かによります。もともと生物学的な異常が原因で、ひきこもっている場合は効きます。たとえば、大脳の神経細胞をつなぐ神経伝達物質に異常があり、その結果として統合失調症やうつ病などが発症する場合、抗精神薬は大脳の神経細胞に効いて効果を現します。生物モデルで考えた治療が功を奏します。
 そうではなく、もともと学校や家庭のストレスがあったり、思春期の心の成長がまわりに追いついていかないためにひきこもっている場合、大脳の神経細胞に異常はみられません。したがって、いくら薬を飲んでも、原因となるストレスや心の成長の問題が解決されない限り、ひきこもりは改善しません。この場合は生物モデルはあまり役に立たず、心理モデルによるカウンセリングや、社会モデルによる居場所づくりや就労支援などが役に立ちます。

 しかし、実際には脳の異常が先か、ストレスが先かという話は「卵が先か、ニワトリが先か」のような堂々巡りで、はっきり白黒がつきません。どうしても、判断する人の経験と主観に頼らざるを得ません。日本の医者は投薬治療が中心で、カウンセリングをしている時間がありませんから、脳の異常が先と診断します。心理カウンセラーは薬を処方できず、カウンセリングがメインですから、ストレスや心の成長が先と判断します。その効果を試すために、2-3週間ほど薬を服用してもらい、効果がなければ薬を止めて、カウンセリングを中心に治療を行うといったこともよく行われます。


Q ひきこもりには、カウンセリングが有効と聞きましたが、カウンセリングで治るのですか。カウンセリングとは、具体的にどうするのですか。

A 本人がカウンセリングを受ける気持ちにさえなることができれば、カウンセリングはとても効果が高いです。信頼できるカウンセラーに十分に自分の気持ちを語ることで、気持ちが整理され、いままで見えてこなかったものが見えてきて、自信を回復するからです。
 カウンセリングは、クライエントの疑問や悩みをに対して、カウンセラーから適切なアドバイスを与えます。そのように想像される方が多いと思いますが、これは本当のカウンセリングではありません。ごくまれに、アドバイスや指針で問題が解決することがありますが、ほとんどの場合、これでは問題が解決しません。なぜなら、単純にアドバイスでできるようなことは、既にカウンセリングに来る前に自分自身で試みている場合が多いからです。それでもうまく解決できないから相談にやってくる方がほとんどです。
 本来のカウンセリングは、カウンセラーがアドバイスや指針をクライエントに対して語るのではなく、その逆にクライエントがカウンセラーにたくさん語ります。何をどのように語るかは、カウンセラーからヒントを差し上げます。その枠組みに沿っていろいろ語っていくなかで、いままでとは違う見方が見えてきます。
 私たちの日常生活は、パターン化しています。何がどのように困っているかという現実認識も、一つのパターンにはまっています。それをカウンセラーという他者から別のパターンが与えられると、いままで語られれいなかった部分や、わかっていながら語ることが躊躇してうまく語られなかった部分にも光が当たり、新たな視点が見えてきます。すると今までいかに狭い思考範囲のなかにはまっていたのか、ということに気がつきます。

 ある女性は、カウンセリングの感想を次のように語っています。
「はじめて他の人に、これまでのことを好きなように語りました。語っているうちに、いろいろなことに気づきました。」
 これがカウンセリングの効果です。この女性のお話の内容は、とくに新しいことではありませんでした。いままで考えたり悩んできたいつもと同じ物語なのに、カウンセリングの場であらためて語ると、何かがいままでとは大きく異なって見えてきます。
 自分のことや家族の悩みや問題は、自分の自尊心や自信を奪うので、平常心で語ることができません。封じ込まれた物語を語ろうとすれば怒りや罪悪感、恥や不安などの否定的な感情が飛び出します。病気のせいか、自分のせいが悪いか、相手のせいか、よくわからないけど何かが悪いことだけは確かです。できれば語りたくないと縮こまって語ってみたところで、何か新しいものが見えてくることはありません。
 同じ話を信頼できるカウンセラーの前で語ってみます。いままで自信を失わせていた感情を安全に解き放すことができれば、逆に語ることが自信につながるのです。それまで人には語ってはいけないと思っていた恥の領域だったものを、カウンセラーが恥や罪の意識なしで肯定的に受け止めます。すると、過去に起きた事実は変わらないけど、その意味づけが大きく変わります。つまり、人に語ることが禁止されていた自分だけの恥の物語が、他者に語り他者と共有しうる一般的な物語に変換されます。
 そうすれば、もう恥ずかしく、自尊心や自信を奪うような体験ではなくなります。そして、前向きな元気が出てきて、自然と身体の調子も良くなり、仕事や日常生活、そして人との関係もプラスに回るようになります。このようにして、ひきこもりの問題もゆっくりと氷解していきます。

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