2012年6月5日火曜日

足が地についている感覚


 ひきこもっている息子を持つAさんは家族グループカウンセリングに参加しました。その数ヶ月後に、「グループカウンセリングで私の心のふたが開いてしまった。どうにかしてほしい。」と個人カウンセリングにやってきました。息子さんの相談とともに、Aさんご自身が「ひきこもり」だと言います。親として日常生活は切り盛りしますが、それ以外では社会との接触を極力避けていました。
 個人カウンセリングで、Aさんはご自身の過去を語り始めました。毎回、分厚い手記を持ってきます。分量が多いので、前もって郵送してもらい、目を通しておくことにしました。そこには生まれ育った家族、そして結婚した家族のなかで起きた否定的な体験、つまり不安、恐怖、悲しみ、怒りなどの気持ちになる体験がたくさん書かれていました。
 これがまさに「心の凝り」なのです。それを想起するととても痛いので、ふつう隠すのですが、Aさんは語る勇気を持っていました。
 カウンセリングを始めて9か月後、11回目のカウンセリングで、Aさんは次のように書いてきました。Aさんの許可を得て、原文のまま掲載します。

カウンセリングを始めて5か月後くらいからちゃんと足の裏が地面についている感覚がある。これ以上落ちていくことのない安定した感覚だ。それ以前は地面に穴が開いていて落ちて沈んでいくような感覚や、暗闇の中で綱渡りしているような不安定な状態だった。
この安定した感覚というのは、自分がこの世の中に存在して良い、生きていて構わないという肯定的な感覚だ。不安定な感覚というのは自分は存在してはいけないのではないか、生きていてはいけないのではないか、生きていても良いと(誰に?神みたいな大きな存在、それとも親に?)言ってもらうためにいろいろな条件をクリアしなくてはいけないと思っている感覚だ。
私は今まで不安定な中にいて、今それを外から眺められるようになった。今は不安定から脱し、安定した。

 これはカウンセリングで達成した素晴らしい感覚です。
 人は誰でも自分の基盤を持っています。しかしそこに否定的な体験がたくさん埋め込まれていると、それを基盤として認めることができず、自分の底がない、とても不安定な気持ちになります。
 カウンセリングはオセロのコマをひっくり返すようなものです。自分の体験を語ることは、自分を外から眺めることです。語る内容はとても否定的な辛いこと(黒)ですが、語ることによって、その体験をカウンセラーが受け止め、自分自身も受け止めることができます。それはとても勇気ある肯定的な体験(白)です。
 Aさんのカウンセリングはもうしばらく続くでしょう。Aさんは気持ちが安定し「ひきこもり」から脱しつつあり、それと並行して息子さんも少しずつひきこもりから生還しつつあります。

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