2012年6月26日火曜日

ソトの世界に導く要因


ウチとソトの世界のはざまで戸惑っている思春期の子どもをソトの世界に誘う親の関わり方を具体的に説明します。 

親の保護の囲いを解く

親は近いポジションから遠いポジションへ撤退します。いつまでも子どもの至近距離で保護し続けていてはだめです。保護者ポジションから撤退し、今まで親が面倒を見てきたことを子どもに任せ、失敗しても手を出さず、子ども自身が苦労しているのを黙って見守ります。親が心配すれば、子ども自身は心配しなくて済みます。親が心配しなければ、子どもが自分で心配し、辛さに耐えながら乗り越える術を会得していきます。
特に、子どもがやる気を出さない時が親にとって試練の場です。やる気の動力源を親のエンジンから子どものエンジンに切り替えなければなりません。
例として、もうすぐ学校の試験なのに、子どもは一向に取り組む気配が見られずゲームばかりやっているという状況を考えてみましょう。
親:「勉強しなさい!」
子:「今、やろうとしてたのに(プンプン)!!」
親:「そんなこと言っても、あなた放っておいたらずっとやらないくせに!」
思春期によく遭遇する親子のやり取りです。
子どもにまかしておいたら一向にやらないのでしょうか、それとももう少し待てば本人からやる気を出すのでしょうか。
ふつうは大人のエンジンの方が高性能です。やらなければならい状況にすばやく対応してエンジンを起動します。使い始めて間もない子どものエンジンは起動が遅く、出力も弱いです。親のエンジンを使った方がよっぽどうまくいきます。間に合わない時など、つい親のエンジンを貸してしまいます。その場は良いのですが、子どもはいつまでも自分のエンジンを試すことができません。親のエンジンを切るということは、差し出したくなる衝動を抑え、子どものパフォーマンスが落ちるし、時間もかかり、もしかしたら今回は間に合わないかもしれないというリスクも覚悟しなくてはなりません。

子どもへの信頼感

親が単純にエンジンを切り、手を出さず放置しておけばよいわけではありません。芽が出てきた子どもの力を認め、承認することが大切です。
子ども自信がありません。ソトの世界でうまく振舞うことができるか、自分のエンジンを使いこなすことができるか、試してみるもののこれで良いという確信をなかなか持てません。そのようなときは、まわりの大人が自信を分け与えます。ずいぶん頑張ったね。それで良いんだよ。あなたはもう大人の心が芽生えつつあるね。ひとりでできるようになったね。それでやってごらん。あなたならきっとできるはず。このようにして、子どもへの信頼を伝えます。親が肯定的な未来予測を持つことで、子どもにも肯定感が伝わり、少しずつ自信を獲得していきます。
特に子どもが迷い、自信を失くして弱気になり自分ではもうダメ、できない、助けてと子どもの心を全面的に投げかけてきたときが親の試金石です。子どもを抱きかかえ、辛い気持ちを受け止めてあげることは大切です。しかし弱気な子ども心を全面的に買ってしまうと、その場面は親の力により困難を回避できますが大人の心が育ちません。肯定的に励ますことが大切です。たとえば、「それは大変だね。辛いだろう。では、この一部分を親がカバーしてあげよう。でも、他の部分は自分でやってごらん。あなたは自分でできるでしょう。親は今までのように手を貸さないよ。あなたのことを拒否しているわけではない。もう自分でできるはずなのだから、親がやってしまったら子ども扱いしているようで失礼でしょ。」という具合です。 

肯定的に叱る

それでもだめならば、きちんと肯定的に叱るのも良いでしょう。
「なにそんな甘いことを言っているの!あなたはできるんだ!(あなたはダメだとは言わない。)いつまで親に頼らないでも良いんだよ!あなたはしっかりしている、できる能力も持っているから自分でやってごらん!失敗しても良いよ。親が見守っていてあげるから。初回がダメでも3回くらいやればきっとうまくいく。」という具合です。肯定的な叱り方と否定的な叱り方の違いに気をつけましょう。「あなたはダメだから、、、」は否定です。「あなたはできるのだから、、、」は肯定です。否定は自信喪失につながりますが、肯定はいくら強く言っても(叱っても)構いません。

傷ついた子どもを承認する

ウチの世界で100%でいることができても、外に出ると傷つき自己万能感を満たせなくなります。親の期待や自分自身に課した夢を果たせなくなります。親の期待を修正すると同時に、70%しか果たせない子どもを認めることが大切です。他者により承認されて、傷ついた自分を受け入れることができるようになります。傷ついた自分を肯定することがソトの世界を生き抜く原動力となります。

家族の安心感を醸成する

人の心は不安領域と安心領域のふたつから構成されます。その割合は、生活状況の中で常に変化しています。問題が生じてたいへんな時、苦しい時は不安領域が多くなり、嬉しいこと、幸せなことがあれば安心領域が多くなります。人に向ける言葉は、すべてこのどちちかの領域から発せられます。
安心領域とは肯定的な見通しです。将来のことはわからないけど、どちらかというとプラスの方向に行くのではないかという楽観的な見通しです。
不安領域は否定的な見通しです。将来のことはわからないけど、どちらかというとマイナスの方向に行くのではないかという悲観的な見通しです。
この気持ちは家族の間で伝わります。
安心領域からのメッセージは、相手も安心にさせます。
不安領域から発せられたメッセージは、相手も不安にさせます。
たとえば、「学校休んだら進級できなくなるよ。学校に行きなさい!」という言葉を考えてみましょう。
一見、キツイ言葉ですが、安心領域から発せられる場合も、不安領域から発せられる場合もあります。ホントの気持ちが安心領域から発せられる場合:「いじめられたと言ったってあなたはそれを跳ね返すだけの力を持っているわよ、多分。イヤでも行っていれば慣れるわよ。そんなウジウジ言ってないで学校に行きなさい!」というメッセージが伝わります。
不安領域から発せられる場合、「このまま休んだら進級できなくなって、ひきこもりになって、あなたの人生はダメになるわよ。今行っておかないと、悲惨な結果になるわよ。だから学校に行きなさい!」というメッセージになります。
これと逆の言葉を考えてみましょう。
「いいよ、今は無理して学校に行かなくても構わないよ!」
一見、子どもを肯定するメッセージですが、これも安心領域、不安領域の両方が考えらえます。
安心領域から発せられる場合は、「しばらく行かなくても、長い人生、とりもどせるよ。ストレートに進まなくても人生はちゃんとやってゆける。君はその力を持っているはずだね。自分のペースで進んでごらん。」というメッセージになります。
不安領域から発せられる場合は、「あなたにはもういくら言っても無駄ね。カウンセラーの先生に、子どもをすべて受け入れなさいと言われたわ。私のやり方は間違っていた。ゴメンなさい。親のせいね。もうあなたの自由にして。お母さん、あなたに関わる自信ないわ。」というメッセージになります。
家族は気持ちが連結しています。親が不安領域をふだん働かせていると、子どもにもそれが伝わり、不安領域が大きくなります。不安は変化を恐れ停滞させます。何をやっても成功した部分よりも失敗した部分に目が行き結果的にうまくいかなかった、ダメだったと認知します。自分では対応できないとあきらめて親に依存します。
親の安心領域が多いと子どもも安心領域が多くなり、うまくいく部分に目が行き自信を獲得します。安心感は逆境を乗り越え、前に進むことができます。

親自身の心の元気さ

子どもが安心できるためには、親が安心して居ることが大切です。そのためには、子どものこととは関係なく親自身が心の元気さを保持していることが大切です。それは、親自身がこれまで生きてきた過去から、現在、そして未来に至るまでの家族関係や夫婦関係、家庭生活や仕事のことなどすべてが含まれます。逆境に陥り苦労が多く、親身に相談できる人がいなくて、ひとり孤独で辛いような状況では不安領域がメインになってしまいます。子どもに関わる時もどうしても不安的な見方で見てしまいます。逆に、多少困難な状況であっても親身に相談できる人がいて、元気を出せる状況だと安心領域を活性化できます。子どもの不安に対しても安心感を切り返すことができます。
親自身が、不安領域と安心領域をどれくらいの割合で持ち合わせているか、なかなか自分では確認できません。人のことは客観的に眺めることはできても、灯台下暗し、自分自身のことは却って見えないものです。子どもの不安で相談に来る親も、本当は、親自身が別のところに不安感を隠し持っていたりします。この場合は子どもの悩みを相談する前に、親自身の不安感についてよく相談します。

コミュニケーションの見本

ウチの世界にいた子どもは自立したコミュニケーションは必要ありません。ソトの世界では、切り離された他者に対して自分を主張し、異質な相手を受け入れるという本当の意味でのコミュニケーションを体験します。学校や友だち関係を通してだんだんとそのやり方を会得していきますが、始めの頃はどうやったらよいか見当がつきません。身近にいる親がその見本を示してあげます。
きょうだいは年齢差のある仲間です。きょうだい間で自分を主張しながら相手を受け入れ、折り合う妥協点を模索します。同年代の仲間とのやり取りを学ぶ良い機会です。年上のきょうだいの優位性を畏れつつチャレンジします。年下のきょうだいに対しては自分の優位さを誇示するばかりでなく、いたわり弱さを助けます。きょうだい関係から体験できることはたくさんありますが、きょうだい関係がないひとりっこは不利ということではありません。自分自身を含むきょうだい関係よりも学ぶものが大きいのは両親の姿です。
大人のやり方を子どもたちは実によく観察しています。理解するというよりは、体験的に身につけていきます。両親の夫婦仲がどの程度良いのか良くないのか、夫婦のコミュニケーションがどれほど成立していて、争っているときもどちらの言い分が理にかなっているのか、理不尽なのか。夫婦がどうお互いに向き合い、どれだけ自分の気持ちを相手に伝えているか、そして相手のことも理解しようとしているかなどを観察します。
時には激しく口論しても、相手を気遣い暴力まではいかず、お互いに言いたいことを言った後には折り合うことができて、また関係が修復できるのだという姿を見ていると、子ども自身もそれを真似して友だちとの間に応用することができます。友だちと気が合わなくてもこうすればよいのかというやり方もわかるし、意見が合わずにケンカしても、きっと仲直りできるだろうと想像することができます。
両親が本音では信頼できず、夫婦喧嘩を修復できなかったり、疎遠で気持ちを交流させたりコミュニケーションが成立せず夫婦喧嘩もできない様子を見ていると、友だちとどう違いを乗り越えて自分を主張して親しくしたらよいのか、今ひとつ実感がつかめません。
親子関係を見直すためには、まず夫婦関係を見直すことから始めます

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