2013年9月27日金曜日

健常者の論理

面接室での会話です。

A)
私の心の中には、いろいろな恐怖があります。
  • 将来への恐怖。このまま収入を得られないと、親がいなくなった後どうするんだろう。今の生活はできなくなる、生活保護を受けることになるんだろうか。精神的に耐えられるとは思えない。野垂れ死ぬしかなくなるのかなあ、、、という不安。
  • 自分の評価への恐怖。まわりの人たちからどう見られているのか、、、という不安。
  • 就職活動の恐怖。履歴書をどう書くのか、面接はどうするか、、、前に失敗したから、また失敗する不安。
こういう恐怖を乗り越えたいんです。。

田村)
A君は自分の現実とちゃんと向き合っているよ。とても偉いと思う。
つまり、こういうことかな。
自尊心(自分のプライド)が傷つくんだよね。
最終的には自分の存在、自分の命にかかわる恐怖かもしれない。
傷つけられると、自分という存在が危うくなる。
自分らしさがなくなる、つまり自分がなくなってしまうという存在消滅の恐怖なのかもしれないね。

母親)
親の私が悪いんです。
私が「こんなことでどうするの?甘えていてはダメ。これからどうするの?」
と言って、Aを追いつめてしまったんです。子どもを傷つけてしまったんです。
だから、その後に反省して子どもに謝ったんです。

田村)
親は傷つけて良いんですよ。
傷つくことで、人は成長します。
だれでも人は潜在的に回復力を持っています。
人は生きているうえで必ず傷つきます。それを何とか乗り越えることで自信を獲得して、ひとまわり大きくなります。それが心の成長なんです。

だから、親がそうやって傷つけたことは良かったんですよ。それでもA君はちゃんと生きているでしょ。親が傷つけたからA君が立ち直れないのではないのですよ。優しく、安全に傷つけることで、立ち直るチャンスをつかめるんです。
だから、親は悪くはない。そのことをしっかり考えてください。
あえて親が悪かったとすれば、傷つけたことを謝ってしまったことかもしれません。
そりゃあ、A君にとって辛かったでしょう。そのことはよく理解してあげてください。
でも、親が傷つけたことを自分が悪かったと否定してはいけません。

A)
先生の言ってることはわかるけど、それは健常者の論理です。
負荷に対する人のレスポンスはみな違うと思います。
負荷がかかり、頑張る人もいるでしょう。
でも、同じ負荷で電車に飛び込んでしまう人もいます。

田村)
そう、その通りですね。A君は鋭いよ。
で、A君自身ははどっちなの?
少なくとも、今までは後者でしたよね。
傷つき、自信をなくして、動けなくなってしまったのだから今、こうなっているんだよね。
でも、今は前者の頑張れる方に変わったんじゃない?
こうやって、カウンセリングもすごく頑張っているじゃない!
自分の恐怖心をこうやって言語化して、それを乗り越えたいと思うなんて、すごいと思うよ。

たしかに、A君のいうとおりこれは健常者の論理なんですよ。
ふたつの考え方があるんですね。
脆弱性モデルとレジリエンス・モデルが。

脆弱性モデルでは、
人は基本的にマトモというか正常のはずだという前提です。(人=健常者という論理ですね)
しかし、実際にはダメになってつぶれちゃう人がいます。
なぜそういう人が現れるのでしょうか?
それは、どこかが脆弱なんだと考えます。
身体が弱いとか、心が弱いとか、〇〇病とか〇〇障害とか、性格が弱いとか、親がダメだとか、学校がダメだとか。
そう考えれば、脆弱な部分を見つけ出し、それに合った対応をします。
治せるなら治すし、治せそうもないなら、正常の人とは区別して、そっと潰れないように無理をしません。
A君の恐怖心がもともとの性格とか〇〇障害とかA君本来が持つ脆弱性から来ていると仮定すれば、もう仕方がない、恐怖を乗り越えるなんてことは考えずに、恐怖を避ける生き方を考えます。

レジリエンス・モデルでは、
人は基本的にマトモでないというか弱いはずだという前提です。(人=弱者という論理ですね)
しかし、実際には頑張って乗り越える人がいます。
なぜそういう人が現れるのでしょうか?
人に助けを求められるとか、支えとなる人がいるとか、自分の限界を知っているとか、全面的に信頼できる超越した存在に守られているとか、コミュニケーション能力を持っているとか、、、何かわからない要因があるはずです。
そう考えれば、乗り越える力(レジリエンス)をどうにか見つけ出し、それをうまく活用します。
そう考えれば、本来弱い人間でもどうにか電車に飛び込まず、それなりに幸せを感じて生きながらえることができます。
人間はもともと弱いですから恐怖心があって当然です。A君が弱いとかおかしいわけではない。人間という存在自体が弱いわけですから。A君の恐怖心を何とか乗り越えて生きながらえるかもしれません。
A君のレジリエンスは見えてきました?
今まで、あまり成功体験が得られていないからはっきりとは見えてないけど、何となくA君の芯の強さを最近感じます。
それは、お母さんがA君を追いつめたことが逆説的に功を奏したのか、
あるいは、私といろいろなことを話せたことも原動力になったかもしれませんね。
他にもあるのかもしれません。

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