2012年11月16日金曜日

本当に求められている精神医療

<抗不安薬依存深刻に>
抗不安薬や睡眠薬を長期に処方された患者が、薬物依存に陥り、薬を減らしたりやめたりする際の離脱症状に苦しむケースが問題になっている。日本は欧米に比べ、抗不安薬や睡眠薬の処方が際だって多い。漠然とした処方をやめようとの動きも始まったが、薬物偏重の背景には、患者の訴えをきちんと聞くことのできない日本の精神科医療の問題がある。

...欧米では、治療指針で処方期間を4週間以内とするなど、早くから対策が講じられた。...

ところが日本では、多くの精神科医や内科医が「飲み続けても安全」と、漠然と使い続けた。

<訴え聞かず暴言吐く主治医>

...日本の精神科医療が薬物偏重である背景には、精神科医が、患者の訴えを聞いて診断する力が不足していることがある。ある精神科医は、「もし自分に、患者の訴えをきちんと聞く技術があれば、初診から薬を出すケースは相当減るだろう」と打ち明ける。...(医療情報部 佐藤光展)(読売新聞2012.11.13)

これは、最近の新聞からの引用です。
私が6年間の医学部で受けた教育は医学モデル、つまり病気の診断と治療が主で、心理学や社会福祉、ソーシャルワークなどの勉強はほとんどやりませんでした。
大学院や研修医時代にはもう少し幅の広い視点も養われました。しかし、話を聴こうとしても5分や10分、せいぜい長くても30分程度では限界があります。それで私は英国に渡り、家族療法のトレーニングを3年間積み、その後も国内外のさまざまな機会を利用して研修を積んできました。そのような勉強はすべての精神科医に求められているものではありません。精神科医の自助努力で行わなければなりません。日本の精神科医の大部分は医学モデルしか持っていません。
ホントは、3つの視点が必要だと私は考えています。

バイオサイコソーシャル・モデル(Bio-, Psycho-, Social- models)
という考え方があります。

  1. 生物学的な見方 (Bio-):精神症状の背後に生物的な異常、たとえば脳の神経代謝物質の異常や先天的な障害を想定します。治療は身体の化学的な組成に影響を与える薬物を用います。
  2. 心理学的な見方 (Psycho-):精神症状や悩みの背後に心のプロセス、たとえばショックな出来事(トラウマ)、失敗体験、恐かった体験などが隠されており、その影響で自信を失くしたり不安な気持ちが強く、物事がうまくいかないと見立てます(もちろん見立てはこれだけではありませんよ。様々な可能性があります)。治療はカウンセリングが主体となります。普段は避けているイヤな気持ち(悲しみ、不安・怖れ、怒り)などに向き合い、気持ちを整理して、後ろ向きから前向きな気持ちになれるよう自信を回復します。
  3. 社会学的な見方 (Socio-):個人のまわりに取り巻く環境や人間関係に焦点を広げます。家族、学校、職場、地域などで繰り広げられる人間関係の文脈を考えます。たとえば不況でリストラの危機にあったり、学校の雰囲気が悪かったり、家庭の雰囲気がいまひとつだったりすれば、多かれ少なかれ人のココロにも影響します。その場合、その人に投薬したりカウンセリングしてもうまくいきません。家族・学校・職場などを視野に含めて動かしていきます。

家族療法の考え方は、(2)心理学的な見方と、(3)社会学的見方を組み合わせた手法です。システム・モデルといってかなり役に立つ見方なのですが、それをうまく行うためは結構な時間と経験が必要です。

たとえば、「うつ」で会社に行けなくなった人を考えてみましょう。
1) やる気が出ず、眠れなくなり、食欲もなくなり、自分はもうダメだと悲観的になってしまいました。この症状だけ取り上げ、生物的な見方をすれば「うつ病」と診断できます。ではお薬を飲みましょう、、、ということになります。
2) もう少し話を伺うと、職場の上司とうまくいかず、仕事で失敗したことがトラウマになり自信を失っていました。それでは、カウンセリングをして気持ちの整理をしましょう、、、ということになります。
3) さらに話を深めると、最近、年老いた父親に介護が必要になり関わっているうちに、未だに父親から認められず子供の頃の父子葛藤が再現し、過干渉に心配する母親からも自立できないことが見えてきました。それでは、家族のことも含めてよくお話を伺いましょう。別にご高齢の両親を治療にお呼びするする必要はありませんが、心の中の家族関係を整理しましょう、、、というようなことになります。

もうひとつ、「ひきこもり」を例に考えてみましょう。
1) 友だちを作れず、学校で孤立して、夜、ネットゲームばかりにはまり、朝起きれなくなって学校を休み始めました。その現象だけを取り上げれば「発達障害」が疑われます。
3) もう少し話を伺うと、実は一族に久しぶりに生まれた男の子で、子煩悩のお父さんはとても期待をかけてスパルタ的にしつけていました。短大卒のお母さんは高学歴のお父さん一家に嫁いできて肩身の狭い思いをしています。夫からも「子育てはおまえの仕事」だと言い渡され、お姑さんの視線も気にして、お父さんから厳しくされるわが子を不憫に思い、甘やかして育てました。厳し過ぎるお父さんと甘すぎるお母さんの間で、友だちをうまく作り、早寝早起きの生活習慣を整えるだけの自立心がなかなか育ちません。ここまで見えてくれば、お父さん、お母さんも含めて一緒にカウンセリングに来てもらい、どうわが子に接したらよいのか見直していく中で、子どもがすくすく成長できる家庭環境を整えます。


ゆっくりお話を聞いて、薬をあまり使わない精神科医療が、今、ほんとに求められていると思います。私のところにも、精神科で薬ばかり増えて、症状が改善しない方や、症状が治った後で、安定剤や睡眠薬を切りたい方が来られることがよくあって、処方されている薬の多さに、驚きを禁じられない時があります。

これは内科医をしている友人の話です。
(1)の生物・医学的な見方しか持っていない精神科医にかかるとこうなってしまいます。
診療時間が短いと、具体的な症状の背後にある事情まで伺うことができません。

人生、いろいろありますね。誠意があり、患者の話をよく聴き、本人をよく見て、なぜこうなったのか、本人が今何を必要としているのか、また長期的に何がベターなのか、よく考えて対応下さる精神科医は本当に重要ですね。

これは別の友人からのメールです。
私も本当にそう思います。

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