2019年12月4日水曜日

上海旅行記

3泊4日の上海から帰国しました。

今年の上海はこれで3回目です。2年前に武漢の学会に招かれ、呉さんに出会ってから、頻繁に来るようになりました。

呉さんは私の中国のマネージャーです。学会の主催者から紹介を受け、中国の不登校は多くて、カウンセラーのトレーニングは不十分だ、ぜひやってもらいたいという事で引き受けました。呉さんは日本での留学・就労経験があるので日本語は堪能です。大学勤務時代に私の秘書は使ったことあるけど、海外のマネージャーが付いた経験は初めてです。

今までの上海ではカウンセラー(セラピスト)を対象にした不登校や家族療法の研修(ワークショップ)でしたが、今回は初めて家族(親)を対象にした二日間のワークショップでした。
テーマは「不登校とゲーム障害」。
思春期の親(ひとりまたは両親)12組と同じくらいの人数のカウンセラー、計約30名の参加です。支援者と当事者をミックスした研修は東京での「家族療法コンサルテーション」や群馬高山村での研修会など、最近積極的にやっていますが、海外では初めてでした。果たして上手くいくか不安でしたが(海外では予期せぬ事が度々起こります)、結果的には上手くいきました。

いつもの専門家向けの研修ではPPT (powerpoint)を使った講義形式から始めるのですが、今回はPPTもレクチャーもなしで、初めから実際のケースを扱いました。
まず、皆が自己紹介をして語り合い、十分な安全な場を作ります。
カウンセラー(経験はピンからキリまで差があるのですが)と親(ひとり又は二人)がペアを組み、1時間ほどかけて物語を作ります。
1.(問題を抱えた)子どもの物語
2.それを取り巻く家族の物語
3.カウンセラーのアセスメント
4. Consultation Questions(コンサルテーションで話題にしたいテーマ)
を語り合います。
その後、一組30-60分ほどかけて、全体の前で私がコンサルテーションを行います。

私が英語か日本語を使い、中国語との通訳を介します。Crosscultural teaching and supervisionは通訳を介するやりにくさはありますが、国内では経験できない面白さがあります。ただし、cultural sensitivityと経験がないとかなり難しいと思いますが。

日本と中国ではコミュニケーションスタイルが違います。
中国の人はoutspokenというか、研修でもセラピーでも自分をどんどん表現して迫ってきます。こちらから促さなくてもたくさん質問してきます。研修でロールプレイや事例提示の希望者を募ると、日本では内心やりたいと思っている人でも「遠慮」して誰も手を上げません。中国では、多くの人々が手をあげるどころか、こちらか指名する前に勝手に前の席に座ってしまいます。私に文句を言ったり、ロールプレイで参加者の一人が発言すると、見ている観客との間で口論になり大声で言い合ったりします。
声がデカく迫ってくるので、日本人の感覚だと攻撃的で怒ってるように見え、遠慮を知らない(空気を読めない)無礼な振る舞いと認識されます。
しかし、それが彼らのコミュニケーションスタイルなのです。それがわかると、別に嫌な感じはしないし、むしろ、内面の葛藤の表出を促すセラピーの場においては、日本人よりもストレートでわかりやすく、治療効果も高いように思います。
その視点から見ると、日本のコミュニケーションは隠喩的すぎて、何を言いたいのかわからない、言語化や表情によってはっきり自分の気持ちを出そうとしません。「遠慮」や「空気を読む」は日本独特のコミュニケーションなのです。

今回のワークショップ終了時、普段は事務連絡だけの呉さんが、急に自分を語り始めました。彼が若い頃、親に反抗して色々あったんだけど、自分でなんとか困難も切り抜けたし、親はそんなに関係なかったし。
ワークショップで、あまりに子どもへの心配を語る親たちの話を受けて、思わず語りだしたのでしょう。彼は心理学の専門家ではありません。

今回のワークショップは思春期の子どもの問題に親がどう関わったら良いかというテーマでしたが、蓋を開けてみると、子どもに対する親の不安がクローズアップされました。このあたりは、日本の家族と全く同様です。日本の家族は親の感情(不安)を隠そうとしますが、中国の親たちはストレートに出してきます。
子どもの視点からすれば、思春期の困難さは自分でなんとかするものだし、親がどうこうできるものではありません。それが自立心の芽生えでしょう。しかし、親は限りない不安の眼差しを向け、思春期の子どもたちが自分で悩み葛藤する機会を奪ってしまいます。親の愛情が裏目に出て、子どもの心の成長を抑制します。

呉さんの語りを聞きながら、思春期の子どもの親が、親自身の思春期を回顧して語る機会を設けるのも面白いなと感じました。
子ども側の心理に立つ事ができます。
・自分自身の若い頃の最も困難だったこと、辛かったことは?
・それをどう乗り越えたのか?
・その時、親はどうしていたのか?親の援助を借りたのか?
その中から、親の肯定的な愛(子どもへの信頼と安心)を見出すことができれば、今の自分も親として子どもに肯定的な愛を届けられるかもしれません。
しかし、当初は親の否定的な愛(心配や不安の眼差し)を見出してしまうかもしれません。それをよく掘り下げ肯定的な愛までたどり着けるか。それがファシリテーターの技量になるでしょう。

<余談>

中国のインターネットはGoogle, Facebook, LINE, Dropbox, Amazon, Youtubeに繋がらない。
WeChatは普通にログインできる。じゃらんはログインして予約照会もできた。
日本のウェブサイトの多くは、トップページは閲覧できるのだが、ログインはできない。
Booking.comはアカウントにg-mailを使っているのでログインできない。
日本の銀行のトップページには繋がったけど、ネットバンキングにログインできない。
Yahooはログインできるけど、検索はできない。

メールもLINEも使えないし、検索も、Googleカレンダーも、Dropboxのファイルにもアクセスできないし、Amazonで買い物もできない。およそ普段PCでやっている仕事ができなくなる。
普段のPC仕事がいかにinternetに依存しているか思い知らされます。
こんな規制がかかっているのは、私が訪ねたことのある国の中では中国だけです。
普段は国内から、VPNが付いているWi-Fiルータを用意するのですが、今回は週末をはさんだ4日間の短い旅なので敢えて用意しませんでした。不在中に重要なメールやLINEが来ているのではないかと気がかりでしたが、帰国して開けてみると、ジャンクメールはたくさん来てますが、緊急の連絡がありません。
普段、いかにネットに依存しているかということがよくわかります。
ちなみに、今回のワークショップは子どものネット依存についてです。

上海は超近代と旧来の伝統が混在している街です。
東京をはるかに凌ぐ超近代的なビルや広場や、とても大きなショッピングモールが市の中心部にたくさんあります。
そこから一本裏の道に入ると、昔ながらのちょっときたなく見える集合住宅や小規模商店街などが混在しています。
伝統から近代へ。
急速に進化している中国社会を象徴しています。

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