広尾では自由診療でしたから、保険診療は10年ぶり、病院勤務や当直は30年ぶりです。まさかこの歳になって保険診療の医師に戻るとは思っていませんでした。
自由診療に慣れた視点から、保険診療の特徴について考えます。
医学モデル
Bio-psycho-socialな視点では、保険診療は当然のことながらBio(医学モデル)が中心で、心理および社会的な視点は医学モデルを補助する役割を果たしています。
多職種からなる医療チームを医師が統括しています。
ソーシャルワーカーが他機関からの紹介を受け付け、サイコソーシャルな背景をインテークします。
心理士が検査などで心理アセスメントを行います。
それらの情報を手がかりにして医師が医学的病名を診断します。
診断名に基づいて、治療計画が立てられます。
と言っても薬物療法が中心で、本人や家族への心理社会的治療は補足的にしか行われていません。
医学モデルによる治療(支援)は診断と処方がメインで、医師によって独占されています。その結果、医師が医療チーム全体の責任とリーダーシップをもつことになります。
薬への依存
昨年の1月にいずみ医院で外来診療を始めた頃にはまだ患者の数も少なく、生活や病歴を詳しく伺い、心理社会的治療に時間をかけることもできました。
しかし、患者の数が増えるにつれ、ひとりの方に割ける時間が限られ、じっくり話を聴けなくなりました。すると、処方箋をきることしかできなくなります。治療手段として薬物に頼らざるを得なくなります。
何年も受診し分厚くなっているカルテを見ると、何年も長期間に渡り同じ薬を処方されています。症状も安定しているので減薬を提案しても、「同じ薬をお願いします」と言われてしまいます。説得して減薬すると、次の受診時には「調子が悪くなりました」と訴え、元の処方に戻さざるを得ません。
患者側も、医者側も、薬物に依存せざるを得ない状況にあります。
当事者として、支援者の良心としても、丁寧な社会心理的治療を目指したいと願います。
しかし、そのためには時間をかけた支援者のトレーニングと、時間をかけた丁寧な支援が必要になります。その体制が十分に整わないと、経済効率に長けている薬物治療が優先されてしまいます。そのバックには製薬会社と日本医師会のロビイングによる現行の医療保険制度があります。
そのような制約の中で、細々と行う社会心理的治療が見えてきました。
保険医療のメリットは、比較的安価に医療を受け続けることです。
少量の薬物をトークンとして用い(私は薬理的効果はあまり信じていません)、一回の診療は短時間でも継続的に長期間関わることで社会心理的側面をある程度掘り下げることもできます。そのためには安定して持続可能な治療関係の継続が必要です。
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