2013年5月10日金曜日

女性の仮面


男性が「鎧」を着ているとすれば、女性は「仮面」になるのでしょうか?

それはうまい比喩ですね。
鎧も仮面も素の自分の上に覆いかぶせるものです。ふたつの違いはその付け方です。鎧は本来の自分をかさ上げし強く大きく見せて敵の攻撃をはね返します。仮面は本来の自分を隠し、別の自分に取り繕います。
鎧とはできるだけ良い学校の卒業証書、資格・免許、できるだけ良い職場の肩書きなどです。自分は有能であることを誇示し、お金を稼ぎ、社会でポジションを確保するために必要です。子どものころから一生懸命がんばって、勉強して、自ら好んで着装します。
女性が教養を身に着け、化粧して美しさを装うのも鎧です。その結果良いパートナーと結婚して家庭に入ると、妻・嫁・母親役割という仮面を着けます。それが似合って良くフィットすれば素晴らしいのですが、仮面のために心の健康が損なわれることがあります。

男性から「うちの妻を診てほしい」と診察の申し込みがありました。A子さんは食欲が低下して、不眠に悩んでます。普段ご主人の前ではほとんどしゃべらないのですが、時々些細なことで怒り狂います。これがもしうつ病なら治してほしいとご主人が救いを求めてきました。 さっそくA子さんを診察したところ「うつ病」ではありません。よく話を伺うと、ご主人の話とは違うストーリーが見えてきました。
A子さんは有能な看護師でした。有能な外科医と幸せな結婚をして、看護師という鎧を脱ぎ主婦になって二人の子どもを育て、同居する夫の親に尽くしてきました。しかし、夫婦の気持ちはだんだん離れてゆきます。多忙なご主人は家で過ごす時間が短く、家のことに無関心です。職場ではとても快活で社交的なのに、家で見せる顔は全く異なります。無口であまりしゃべらず、機嫌が悪いと妻に当たり散らします。それでもA子さんは一所懸命尽くしてきたのですが、だんだん元気がなくなり、体調を崩し、時々気持ちがキレて自分でも訳が分からなくなります。
A子さんとのカウンセリングを始めました。でもA子さんの気持ちがなかなか表現されません。A子さんの気持ちを訪ねても、いつのまにかご主人がどう思っているか、子どもや家族のために私はどうしたらよいのかなど、自分自身の気持ちというより家族の話にシフトします。Aさんは結婚以来、このように自分の気持ちを仮面の下に隠してきました。

ご家族を大切にするA子さんは素晴らしいと思います。でも、A子さんご自身のお気持ちもとても大切ですね。どうぞご自身の気持ちをお聴かせください。

A子さんは徐々に自分を取り戻してきました。A子さんは夫や義母に対して複雑な思いをたくさん抱えていました。

あまり愚痴るのはイヤなんですけど、、、

そうですね。愚痴ってばかりいると自己嫌悪に陥ります。でも、それで良いんですよ。

どの夫婦もアンビバレント(両価的)です。相手にプラスの気持ち(愛情、思いやり、喜びなど)とマイナスの気持ち(怒り、イライラ、憎しみ、落胆など)の両方を抱いています。プラスの気持ちは楽ですが、マイナスの気持ちを表現するのはイヤなものです。愚痴も大切、つまりマイナスの気持ちを抱いている自分を偽らず大切にします。そのようにしてカウンセリングの中で本当の気持ちを解放できるようになりました。

ところで、その気持ちはご主人に伝えましたか?
いいえ。どうせわかってくれませんから、伝えていません。

A子さんひとりのカウンセリングに続いて、ご夫婦でカウンセリングを行いました。伝えにくいこと、伝わりにくいことを相互に伝えあいました。普段ふたりだけの話し合いだとうまく伝えることも、受け取ることもできません。カウンセラーが同席してうまく話し合える雰囲気を作りました。
そうこうしているうちに、何か特別なことがあったわけではないのですが、A子さんの体調は自然に良くなり、気持ちも明るくなっていきました。キレることもほとんどなくなりました。

A子さんは結婚して幸せを願ってつけた仮面が災いして心と体の調子を崩してしまいました。カウンセリングを通して、仮面の下の素顔の気持ちを確認し、パートナーに伝えることもできました。その後も妻・母親・嫁という仮面はつけていますが、以前と比べると素顔も覗かせることができるようになり、かなり風通しがよくなりました。

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B子さんもA子さんと同様に妻という仮面を着け、本当の自分を仮面の下に隠してきました。娘はうまくいかない両親を見て「お母さん、もう離婚しちゃいなよ!」と言います。B子さんもホントはそうしたいのだけど、子どもたちの結婚式までは頑張るつもりでした。カウンセリングを進める中で、この気持ちが変わってきました。

「ホントは離婚したかったのに、子どものために離婚できなかった」という方が親として無責任じゃないかしら。

両親がお互いの悪口を子どもに愚痴るのは子どもの負担が大きすぎる。
一緒に住んでケンカしているより、離れた方がB子さん自身の気持ちが安定して子どもたちにも優しく接することができるような気がする。
B子さんは知人のお菓子屋で見習いのアルバイトを始めました。

これまでB子さんにとって離婚という選択肢は人生の失敗。絶対あり得ない選択肢でした。今でも離婚は失敗だと思っています。なにしろ結婚式で「一生寄り添います!」と誓ったのですから。でも失敗の質が微妙に変わってきました。今までは、離婚が人生そのものの失敗と考えていました。今では離婚は経済的にも気持ち的にも大きな痛みを伴うけど、家族や自分が希望を取り戻すための選択肢と思うようになりました。

B子さんは妻という仮面を捨て去りました。それはパートナーにとって好ましくない、裏切りの選択肢でした。でも、B子さんにとっては自分の心の健康と子どもの成長を守るためのギリギリの選択でした。

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