2013年5月19日日曜日

スーパーヴィジョンの理論と実際


スーパーヴィジョン(Supervision; SV)とは?
  • 心の支援者(スーパーヴァイジー)が臨床体験をとおして指導者(スーパーヴァイザー)と交流し、話し合うことで臨床の腕を磨き、より良き支援者を目指すことです。
スーパーヴィジョンが必要な理由
  • 心の支援者は二種類の学習が必要です。ひとつは、カウンセリングやセラピーの理論や知識を講義や本などを通して学ぶ理論学習です。もうひとつが実際の事例を通して学ぶ体験学習、つまりスーパーヴィジョン(SV)です。このふたつは車輪の両軸のようなもので、片方だけではうまく動きません。特にSVは臨床に関わっている限り継続することが大切です。そうしないと自己流に偏ってしまいます。
  • 支援者は、支援するための軸が必要です。人の心をどう理解し、問題を解決するために何を目標として、どう関わるかを考える軸です。初めは理論学習から入ります。臨床心理学、医学、福祉学などの知識を学びます。しかしそれらは机上の空論に過ぎず、それだけでは生身の人間を扱うことができません。実際に人と関わりながら、その体験を振り返り、学んできた理論をクライエントの特性や活動する文脈、そして支援者自身の特性に合わせて自分自身の軸を作っていきます。その作業が体験学習としてのスーパーヴィジョンです。
  • しかし、実際の現場ではSVの機会が得にくいものです。忙しいとおろそかになりがちですが、個人個人が自ら進んで機会を求めたり、職場の責任者がSVの機会を確保します。
SVの多様性・柔軟性
  • SVやり方は広く柔軟に考えます。また、SVはこのようにしなければならないという決まった枠組みはありません。有能なスーパーヴァイザーはカウンセラーのニーズに合わせて柔軟にスタイルを選択します。
頻度
  • ひとつの特定ケースについて理解する目的であれば、一回だけ単発で行うことも可能です。しかし支援者の臨床能力を高めたいなら、1回のみでは果たせず、継続します。
  • 頻度は月に1回程度から3-4ヶ月に1回ほどの間隔です。継続することが大切です。
いつまでやるの?
  • 期限は区切るのですか、それともエンドレスに続けるのですか?
  • 質の高い臨床家を目指すなら、常にSVが必要です。私のSVでは定期的(半年~1年ごと)に見直します。今までの過程を振り返り、このSVが役に立っているか、方法や内容は適切か、ニーズに合っているか。それによって継続するか、一旦お休みするか、他のSVを選択するかなどを相談します。
料金
  • 単発のSV(=コンサルテーション):1時間3万円。
  • 継続した個人SV:1時間2万円
    •  割引制度あり(ご相談ください)
    • 非常勤勤務など経済的な限界がある場合
    • 日本家族研究・家族療法学会の会員
  • グループSV
    • 人数と回数により異なります。
  • 個人SVより割安になります。詳細はご相談ください。
人数(個人SVとグループSV
  • 1対1の個人SV
    • プライバシーが守られ、SVのすべての時間を自分のために使うことができます。時間・頻度・やり方・内容などを自由に選択できます。
    • ひとりのヴァイザーと深いやり取りは出来ても、多様な情報や考え方は得にくいです。料金が比較的高くなります。
  • 少人数(2-3名)のグループSV
    • 自分の事例を取り上げる時間が少なくなります。ヴァイザーとのやり取りに加え、グループとのやり取りから多様な考え方や意見を得ることができます。
    • 他の人の事例やヴァイザーとのやり取りから学びます。
    • 料金負担が軽くなります。
    • 同僚や友人と一緒にグループを作る場合、信頼できるグループ関係を築きやすいです。SV内で展開された関係性や情報が、SV以外での人間関係に良い意味・悪い意味で影響を及ぼす可能性があります。
    • 知らない人とグループを組む場合(ヴァイザーがその場を提供します)、安心できるグループ関係を築く手間がかかります。SV内で展開された関係性や情報が、SV外の生活に引きずられることがありません。
  • 大人数(7-8名~十数名)
    • 自分の事例を取り上げるチャンスが限られ、多くの時間は他の人の事例に費やされます。観客として気楽だが間接的に学ぶことが多くなります。
    •  同じ機関や友人・知人同士など、ヴァイジーたちがグループを集める場合と、ヴァイザーがグループを集める場合があります。
話し合う手段(対面と電話)
  • 対面で話し合うSVが基本ですが、電話で行うことも可能です。
  • 電話でのSVにはお互いの表情が読めないなどの限界があり、深い話し合いよりはワンポイントアドバイス的なSVに向いています。対面と電話を併用することも可能です。
  • スカイプなどで音声と画像を使えば対面の面談に近くなります。海外では広く行われています。私のところでも可能です。
取り上げる素材
  1. 通常は臨床事例(支援対象者、クライエント)を取り上げます。支援者として関わってきた経験を展開する中で、事例の理解を深め、より有効な対応方法を見出します。
  2. 事例を深めていくと、支援活動の枠組みが見えてきます。ヴァイジーとクライエントの関係性、つまり支援を行っている相談機関の特性や機関内での役割分担や連携、他の支援機関との関係性などです。それも大切なSVの要素です。
  3. さらに深めると、臨床事例に投影された支援者自身の属性に焦点を合わせる場合もあります。ヴァイジー自身の専門家としての、さらには一人の人間としての内面に迫る深いSVとなります。
  • これら3つの素材をヴァイザーの希望とニーズに応じて臨機応変に使い分けます。
継続中の事例と終結した事例
  • 継続中の事例を取り上げることで、その後のより良い支援に直接結び付けることができ、ヴァイジーばかりでなくクライエントも恩恵を受けることができます。ヴァイジーが行き詰まった事例を取り上げると効果的です。
  • 終結した事例を振り返ることで、ヴァイジー自身の支援体験を振り返ります。事例を客観的に整理して理解するとともに、ヴァイジーの支援特性を自己理解して、今後の臨床活動に役立てます。
ライブSV
  • ライブSVではクライエントと関わりながらSVを行います。
  • 面接室に陪席する方法、ヴァイザーとヴァイジーが共同治療者として同時に関わる方法、リフレクティング・チームの手法、ワンウェーミラーなど様々な方法があります。
  • 複数の治療者が関わるので、家族療法など複数のクライエントがいる場合によく用いられます。
  • ライブSVは支援を行いながらその場で学ぶことができるので、具体的な学習効果が高いですが、クライエントへの配慮など手の込んだSVとなります。
振り返りSV
  • カウンセリングの様子を後で振り返るSVが一般的です。そのやり方も様々です。
  • 実際の支援場面を記録した録画ビデオ・録音テープを持ち込み、ヴァイザーと共に振り返る方法は、機材を用意し、クライエントに承諾を得て、SVでもレビューする時間がかかるなど手の込んだSVとなります。その分、具体的な言葉かけや介入方法など、実際の場面のミクロな分析が可能です。
  • 逐語記録、つまり記録(あるいは記憶)した支援場面の会話を文章化します。クライエントに記録してSVに用いる承諾を得ます。記録に起こす手間と時間がかかります。録画・録音法と同様に、ミクロな分析が可能です。
  • 各セッションごとの記録を提示する方法は、日常の活動記録(カルテ)をそのままに近い形で用いるので、比較的手間が省けます。複数回のセッションを提示することで、支援全体の流れや事例の概要をつかむことができます。継続中の事例では、今後の方針を立てることができます。
  • 事例全体をひとつの流れにまとめる方法は、継続中より終結した事例に向いています。各セッションの多くの情報をうまくまとめる作業は手間がかかりますが、まとめる力を得ることができます。学会発表や論文執筆に応用できます。事例の細かい分析には向かず、全体の振り返りができます。
  • 記憶に頼った振り返り法は記録を作る必要がないので手間がかかりません。記憶に頼るために大切な情報が抜け落ちることがあります。初学者は手間がかかっても記録を作る方が良いでしょう。ヴァイジーが事例に関わった記憶を振り返ることは、事例そのものに加えヴァイジー自身の内面を深めます。
ヴァイジーの経験年数
  1. 学生・院生など資格取得前後の初学者は新たな知識・経験を吸収する段階です。ヴァイザーからの指導や情報提供が比較的多くなります。
  2. 経験年数2-3年から7-8年の中級レベルでは支援者としての自分のスタイルを獲得し、自信を深める段階です。事例をヴァイジー自身の言葉で表現し、全体像を把握し、支援方法のレパートリーを増やします。事例から離れ、ヴァイジーの内面を深める時期です。
  3. 10年以上の経験者でもSVは重要です。豊富な経験を下地に困難な事例にも柔軟に対応し、自らも後進を指導する能力を身に着けます。ヴァイザーから新たな理論や技法を学ぶことよりも、ヴァイジー自身が積み上げてきた経験をまとめ、整理する作業を、ヴァイザーが支援します。

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