2013年5月27日月曜日

次世代のネット相談に関する提案

 インターネットは社会におけるコミュニケーション様式を、送り手から受け手へという一方向的な流れから、送り手と受け手が双方向的な流れに大きく変革した。インターネット相談の経験を踏まえ、今までの支援の在り方を振り返り、インターネットの双方向的な特性 を生かした新しい支援の考え方を提案する。
Web 2.0とはメディア関連の実業家であるTim O'Reillyが2005年ごろ提唱した概念で、従来の送り手から受け手への一方的な流れであった状態(Web 1.0)が、送り手と受け手が流動化し誰もがウェブを通して情報を発信できるように変化した仕組みのことだ。今までの消費者(情報の受け手)が書き手(情報の発信源)になったもので、たとえばGoogle(ロボット型の検索エンジン)、Wikipedia、Facebook, ブログ、ツイッターなどがその例である。その考え方を応用したのがGovernment 2.0(ガバメント2.0)であり、「市民と政府の関係を根本的に再編し、政府は自らサービスを提供するだけでなく、民間がさまざまなサービスを開発して提供するためのメカニズムそのものを提供するためのプラットフォームになる(Tim O'Reilly)」、つまり市民がネットを通じて政治や行政に関わる仕組みだ。この発想を我々の支援活動にも応用させたものが、「次世代ネット相談」の発想、いわば「Counseling 2.0」である。
 既存の相談活動では、支援者(相談員)と当事者(コーラー)が二極化していた。支援者は支援するための知識・経験・自覚を持ち、被支援者を守り、傷つけない責任を負う。そのために支援者側・被支援者側もプライバシーを守り、支援方法についての研さんを積んできた。一方、被支援者は悩みや問題を抱えた当事者として、支援を受ける立場である。支援の流れは支援者から被支援者へ一方向的であった。

 インターネット時代の新たな支援の考え方は、この二分法を脱構築する。人はだれでも支援者であると同時に当事者である。つまり人は誰しも当事者性(人生の生きづらさ、問題、否定的な体験)を持っている。だからこそ他者の心情に共感することができ、支援者性を発揮できる。それと同時に、問題や悩みを抱え支援を受ける側の当事者も、支援者性を発揮して他者を救う可能性を持つ。

 従来の支援はあくまで現実世界の中での活動である。対面(面談)が基本であり、電話やネットなどのメディアを介した支援は不十分あるいは不適切と考える。それが生かされるのは現実生活に直結した支援である。たとえば精神疾患などの医学的治療、身体的ケア(デイサービス、身体介護など)、暴力・危険からの保護(DV、児童虐待など)、経済的支援(生活保護、ライフプランニングなど)、就労支援(ハローワーク)、現実社会へ導くような支援(SST、デイケアなど)などである。
 一方、新たな考え方では、双方向性を重視するのでインターネット利用が向いている。電話・ネットなどのメディアでは現実に即した支援ができず、仮想世界の中で本人の主観的言語のやりとりのみの関係なので、自信喪失、孤立、社会的偏見・差別、過去のトラウマ情報不足といった心理レベルでの支援に効力を発揮する。具体的には、生きる悩み・自殺念慮、若者のモヤモヤ、子育て不安、高齢者の孤独、虐待、トラウマの後遺症(PTSD)、依存症(アルコール依存症、禁煙プログラム)、社会的マイノリティー(LGTB、在日)などが考えらえる。基本的に本人の気の持ちようで、前向きになることで問題解決する可能性を秘めており、そのプロセスを他者が横から支え、心理的にエンパワーするイメージである。
  • 人は、人との関わりの中で傷つき、問題や悩みが生じる。
  • 人は、人との関わりの中で救われ、心を癒すことができる。
 人と関わることは救いにもなるし、傷つける可能性もある。支援活動でも同様である。より後者を少なくして、前者を多くするために相談員は研修を受け、「支援者」としての質の向上に努めてきた。現行のネット相談もその伝統を踏襲し、複数の相談員によるシェアリングによって相談の質を高めてきた。従来の支援者vs.当事者という二分法はそのままである。
 しかし、そのことが相談員の負担を増やし、利用者の利便性を低下させてしまうことも否めない。相談員は丁寧に返信文を作り、複数の相談員でシェアリングするために、かなりの時間と労力を要する。そのために、限られた相談員数では多くの相談に対応することができず、受け入れる相談の数を制限せざるを得ない。コーラーは返事が届くまで待たねばならず、その間、次の相談を送ることができない。その一方で、何度も同じような相談を送り、何度も丁寧に対応しても進歩のない多数回コーラーに相談員は疲弊する。

 次世代の相談では、これらの弊害を極力少なくして、コーラーにとっても利用者にとってもより有効な方法を模索する。その一例として次のような方法を提案する。
  • 短い文章のやり取り(Twitterの140文字前後)
  • コーラーは返信を待たず、いつでも次の相談を何通でも送ることができる。
  • 即答性:より早く応答できるようにする。
  • 相談員はセンターに出向かず任意の場所から、任意の時間に、任意の頻度で活動する。
  • PCばかりでなく、スマートフォンやタブレット端末など、新たなメディアでも活動できる。
  • 相談文はすべての相談員に配信され、複数の返事が戻ってくる。返信数が多かったり少なかったり、ばらつきが出るかもしれない。
  • シェアリングは行わず、相談員個人の判断で自由に送信する。
 今の方式では相談員がセンターに集まり、シェアリングしてひとつの確実な返事を届ける。新たなやり方では、相談員はセンターに集まらなくとも、普段の生活の中で身近なデバイスを用いても活動し、シェアリングすることなく相談員個人として送信する。
コーラーにはより早く返事が届き、しかも多くの人から支援を受けることができる。ひとつひとつの返信はそれほど内容の濃いお返事ではないかもしれない。「いいね!」、「あなたのことを見ています」といったようなごく短い返事もありうる。それらを複数合わせれば、多くの相談員に見守られているという感覚を得ることができる。
シェアリングせずひとりの相談員の活動では不十分・不適切な返信も出てくるだろう。現存のやり方は研修やシェアリングなどにより支援の確実性を支援者側が担保しようと努力している。次世代の考え方では、コーラーにその選択を委ねる。市民相談員としての個性(当事者性)をそのまま相手に伝える。どのような返信が適切・不適切かをあらかじめ選択せず多様な個性をすべて伝え、どの返信がコーラーの心情に「ヒット」するかはコーラーの選択である。玉石混交の「個性的」な返信があっても、それが多くの妥当な返信の中で希釈されれば、コーラーも受け入れられるのではないだろうか。
また、相談に依存しているコーラーは、変化のない同じ悩みや相談事を何度でも送りたいだけ送信することができる。相談員としては、同じような多数の相談にひとつひとつ丁寧に返信できないとしても、送信されてきたことを知り、「あなたのことを見ている」といった短い返信であれば活動の負担も少なく、コーラーも多数の相談員によって見守られている感覚を得ることができる。
シェアリングは送信の前には行わない。その代り、届けられた返信文は相談員同士で共有する。つまり、相談員たちは、コーラーの相談文に加え、他の相談員からの返信文もすべて届けられる。相談員同士が送られた返信を読み合い、ネット上でサポートしあうことができる。この部分では、コーラーには見えない、相談員だけに届くサブグループを作る。つまり相談員は返信する活動を行いながら、同時に相談員同士でのサポートを受けることになる。そのことにより、返信文の質の高さはある程度保つことができるのではないだろうか。

実際の活動のイメージは、TwitterFacebookに近い。コーラーと相談員は各自のタイムラインを持つ。たとえば、次のような構成が考えられる。
  1. コーラーのタイムライン
    • 自分の相談文と、それに対する相談員からの返事
  2. 相談員のタイムライン
    • すべてのコーラーからの相談文と、それに対する相談員たちからの返事
    • さらに、相談員の返事に対するコメント。「いいね!」、「それは言い過ぎなのでは!」といったフィードバック。
    • このようにして、オンライン上でコーラーに届けた後の「シェアリング」を行うこともできる。
  3. 相談員とスーパーヴァイザーが話し合うタイムライン
    • 各相談事例や相談方法など全体的なことについて話し合う場所

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